なお

ちむどんどんのなおのレビュー・感想・評価

ちむどんどん(2021年製作のドラマ)
3.5
"心を震わす"

NHK朝ドラ第106作目。
沖縄県の本土復帰50周年を記念して制作されたドラマであり、第99作目の『まんぷく』以来の「人々の食」にスポットを当てた内容となっている。

ヒロインは沖縄出身の黒島結菜さん演じる比嘉暢子。
オーディションなどは行わず、黒島さんバイネームでのキャスティングが成されたという。

✏️「返還」か「変化」か
「沖縄の本土復帰50周年」をテーマとして制作された本作。
実際に劇中でも、暢子たち比嘉家の面々が1972年の沖縄返還を目の当たりにするシーンがあり、その際のエピソード(通貨がドルから円になる、公道が右側通行から左側通行になる等)が描かれている。

自分が本作を完走して思ったのは、果たして本作は「沖縄本土復帰までの長く険しい道程」を描きたいのか、「古い価値観に縛られ、社会の波に揉まれながらも成長していく比嘉家の姿」を描きたいのか。
その点が最後まで判別できなかったな、という思いだった。

「いやぁ、どっちも描きたかったんですよ」と言われてしまえばそれまでの疑問なのだけど、その場合「どっちの要素も中途半端だったなぁ…」という感想だけが残る内容であった。

✏️悲しき歴史
自分が高校生の頃、修学旅行で沖縄に足を運んだことがある。
その際、ひめゆりの塔や沖縄戦を記録した資料館、また当時沖縄に住んでいた人々が集団自決をした崖などを訪れ、壮絶な沖縄の歴史を学び、高校生ながらに「戦争はいけない」と意識を新たにしたものである。

いち高校生の修学旅行でさえそのような教訓を得られるのだから、プロが「戦前・戦後の沖縄」をテーマにしたドラマを作ったらもっと骨太で重厚な「沖縄の物語」を作ることができたんじゃないのォ…?と思ってしまう。

まぁ「朝ドラ」という性質上、朝っぱらから戦争の重くて暗い話は敬遠されやすいし、視聴者がついてこないだろう、という制作陣の思惑も分からないではない。
その点、2020年前期の『エール』は戦争の悲惨なシーンをありありと描いていて、本作でもそのくらいの描写はできたのでは…と。

✏️ホームドラマとして
重くて暗い戦争の話はやめましょう!
…と、それならそれで全然いいのだけれど、暢子たち比嘉家が織り成すホームドラマ的な要素も今一つ振り切らない。

暢子たち比嘉家が貧困にあえいだ幼少期から、暢子たちが成長して「さあ、これから比嘉家を盛り上げていくぞ!」という機運が高まるドラマ序盤の展開は良かった。

メインヒロインの暢子と、その姉の良子(川口春奈)、妹の歌子(上白石萌歌)が持つ人物的な魅力はすさまじく、前作『カムカムエヴリバディ』のトリプルヒロインのような華やかさがあった。
1本の朝ドラで、3人の異なるヒロインの行く末を見守るようなおトク感すらあって、この序盤までは毎週楽しみにドラマを見ることができていたと思う。

しかし、暢子が料理人を目指すため東京へ上京してからのストーリー展開は、全体的に粗雑でご都合主義的。

暢子が上京してお腹を空かせ路頭に迷っているところを、たまたま鶴見の沖縄県人会の重役に拾われ、そのまま住居や就職先まで紹介してもらったり…
暢子の恋のライバルがやけに物分かりが良く、あっさりと手を引いたり…

最近日本の映像界でも”流行り”の「男らしさ・女らしさという概念の否定」や「古くからの伝統の打破」を描くシーン。
本作も多分に漏れずその要素を盛り込んでおり、ステレオタイプでたいへん分かりやすい、なんなら鼻につくレベルでのセリフ回しや描写が多く、若干うんざり。

特に、暢子の婚約相手となる青柳和彦(宮沢氷魚)とその母・青柳重子(鈴木保奈美)を巡る一連のシーンはまともに視聴を続けるのが若干嫌になったほどのうんざり加減。

息子を好きなのはわかるけど、ちょっともうそれを通り越して偏愛的というか、偏執的というか…
SNS上で一時炎上騒ぎ…とまでは行かないが、ボヤ騒ぎくらいにはなった例のセリフも、この「母の愛」を発端とするもの。

かくも、日本のドラマはまだまだこういった要素を描く技量に乏しいと思わざるを得ない。

☑️まとめ
前作『カムカムエヴリバディ』が個人的にオールタイムベスト級の出来だったということもあるが、それを差し置いたとしてもかなり中途半端な内容。

事実、放送直後に「反省会」と称してネット住民による議論が交わされたり、何かと批判の的にされることの多い作品となってしまった。

個人的に黒島さんは今後もぜひ活躍してほしい俳優さんのひとり。
本作でついてしまったイヤなイメージ払拭できるよう頑張ってほしい。
なお

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