yamadakaba

THE DAYSのyamadakabaのネタバレレビュー・内容・結末

THE DAYS(2023年製作のドラマ)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

東京電力調書・吉田調書・関係者インタビューといった事実に基づいた資料をもとに、3つの異なる視点から現実に起きた事故を克明に描き出したドラマ。

東日本大震災発生から、原発建屋への注水に目処が立ったところまでを描いている。

緊迫の7日間となっているけれど、日数にはそんなにフューチャーしていない。

メッセージとしては、10年以上経過したいまでも福島原発の廃炉作業は続いているし、事故は終わっていない。という問題提起なのだろう。シンプルに原発事故について語る以上に、人間の生物学的寿命を超えないと解決に至らないようなもの、つまりは手に負えないものの扱いをどうするのか?どう考えるのか?を問うているのだと思う。

ドラマとしての見どころは各役者の演技と、千葉の廃工場に造ったというリアリティある美術セット。事実を浮き彫りにするためには、役者の入り込んだ演技含め世界観作りが重要だったと思う。

東電本部に乗り込み高圧的な態度で現場に指示を出す総理に向かってズボンを下ろしお尻をかいたり、一部撤退を福島第一原発で死力を尽くしている全所員・全協力会社社員に通達する吉田所長の態度や言葉は胸を熱くする。暗闇を再現したというセットも、電源喪失をリアルに表現しているようで力の入れ方が違う(家のTVで見ると真っ暗でなにがなんだかよくわからないけれど)。

一方事実を描こうとするにしては、原発事故の特徴や直面している問題は、ドラマだけで描くには難しすぎた感ががある。複数ある原発のどの核融合炉に問題が発生しているのか?なにがやばいのか?どう解決すべきなのか?は、ストーリーテリングだけで描くのは難しく、説明セリフを上手に入れただけでは、そのハードルの高さは描けない。視聴者に事故の共通認識があるとしても、いま登場人物たちがどんな問題に直面しているのかを解らせることが十分にはできていないと思う。事故の真実を伝えるという目的があるとしたら、なおさらだ。その辺りは解説+ドラマでこうせいされたNHKスペシャル「原発メルトダウン 危機の88時間」に軍配が上がるだろう。

異なる3つの視点から全体を構成した新しい描き方も本作の特徴だという。原発そのものと闘う現場、政治的に世論や世界と闘う政府、原発で働く肉親を持つ個人、と視点の分け方としては一般的な描き方をしている。

メインとなるのはやはり現場のストーリーで、政府視点はダメな総理・抑えられない周囲の人々を描くだけで、吉田所長や現場の人々をよく見せる対比にしかなっていないし、個人視点は生存を信じ続けるが、最後には事故の犠牲となってしまったことを知るという一家の話が出てくるだけ。そこにテーマ性があるようには思えない。たとえば政府視点ならば、喚き散らすだけで混乱を招く総理には、彼なりの守るべきものがあり、それが結実するエンディングを迎えたりとか、個人視点ならば、犠牲を乗り越えて得られる何かがあるとか、それぞれの視点での物語が必要なんだと思う。実話をもとにしているので制作する上でセンシティブな部分もあったのかもしれない。

最終回後半のまとめ方も、取ってつけた感じは否めない。注水の目処が立ったところからはじまる、吉田所長の語り。原発の成り立ちと、残された時間で吉田自身が何をなすべきか?の自問自答。自らの経験を後世に伝えるべきだいう結論は、本ドラマのメッセージとも重なる。重なるのだけれど、ぴたりと重なりすぎるところが、物語としての余韻をなくしている気もする。

人は時間が経てば忘れていくし、自分との関連性が低ければ意識しなくなる。そういう生き物だろうし、忘れることだって生きていく上で必要だから備わった機能だろう。そんな人々に対して、本気でリマインドしようとした、そんなドラマだった。
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