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ペンディングトレイン―8時23分、明日 君とのyamadakabaのネタバレレビュー・内容・結末

2.0

このレビューはネタバレを含みます

未来にタイムスリップする乗客の運命はどうなるのか!?伏線回収や結末の落とし所どうなるのかなあ、と思って見続けたところ、どうやら、いろいろ取り込みすぎてまとめきれなかった感じの終わり方。

エンディングは、現代に戻って隕石が衝突する日が迫る中、スイスへと向かう畑野たち乗客。白浜と萱島は日本に残り、いまを生きろ、と助けられる人を1人でも多く救おうとする。

隕石が衝突したかどうかまでドラマ上は描かれないが、未来に残った田中(杉本)の元に米澤(藤原)のタイムカプセルに入れた手紙が届いていることから、隕石の衝突があったとも受け取れる。

結末を含め、やりたいことを詰め込んだ結果、うまく消化できてはいない印象。見知らぬ乗客と未知の世界でのサバイバル群像劇は「LOST」、消えた乗客が帰還し大切な人との変化や交流は「マニフェスト」、原因の究明と地球の危機を告げる民間人・蓮見(間宮)が出てくるあたりは「ドント・ルック・アップ」、未来世界で気が触れた田中(杉本哲太)はドラゴンヘッドのノブオ、などをやりたかったのかなあ、という気配を感じられるものの、どれも描ききれてはいない。

登場人物が多くバリエーションに富んでいる割には、主要の3人以外の掘り下げは少なく、あっさり。主要3人についてだって、現代に告白できない密かに思いを抱いている相手がいるとか、自分のせいで怪我した先輩がいるとか、その消防士に密かに恋焦がれていたとか、家庭内暴力で兄弟を親代わりで育ててきたとか、の設定を受けてのキャラクター設定はあるが、キャラ設定をベースにしたサブストーリーが盛り込まれているかというとそうでもない。未知の世界に放り出され、そこで共同体を作っていかなければならない葛藤や問題、対立する6号車の登場など、価値観をバチバチ戦わせられそうな土台はあるものの、物語がない。

ワームホールでタイムスリップし、あっさり現代に戻ってこれたのは、まあ、いいとして、戻ってきた後に大きな物語があるかというと、そうでもない。未来に起こる出来事が受け入れられないのは当然として、人類の危機をどうやって信じさせていくのか?という点と、現代に戻ったからといって、すんなり元通りになれるのか?という問題を扱っているが、どちらも盛り上がりに欠ける。隕石の発見は天才ぽい物理学者・蓮見の役割になっているし、乗客が絡んでくることはない。その対策も寺崎(松雪)が少し絡むが、基本的に乗客がしていることはない。タイムスリップ後の生活に関しても、メディアなどで取り沙汰されたり、乗客通しの恋愛なんかもあるけれど、仕事が多少変わったり、状況の変化が多少あるものの、基本的に軋轢なくそこに物語がなく、時間を戻ってきたところに盛り上がりがない。

列車消失の謎を追う刑事たちも、緊迫感がなく、ストーリーとしての展開に貢献してはいない感じ。

個々の葛藤を掘り下げるわけでもなく、人類を救うわけでもなく、時間を逆行したことで生じる問題に立ち向かうわけでもないこのドラマのラストは、何もない未来で最初は見知らぬ乗客同士が、心を通わせなんとか手を取り合って生き延びた経験を持つ白浜と萱島が、戻ってきた世界は思っていたような清い世界ではなく世界ではなく、終わってもいいとも思ってしまうような世界だけれど、それでも自分達のできることを行い、必死の覚悟で生きようと手を取り合うところで終わる。死ぬことがわかっている状態でもいまできることを精一杯やろう、という主役の行動は、作り手のメッセージでもあるのだろう。ということは、いまをちゃんと生きている人が少ないという前提のもとでないと成り立たない。でも、本当にそうなのかなあ。実感に欠ける気がする。

オリジナル作として制作した宮崎P曰く「赤の他人だからこそ生まれる人間ドラマを観てみたい。人と人とが関わる大切さをメッセージにしたドラマを作りたい」というのが発端とのこと。考え方の違う赤の他人同士が、重大な決断を迫られ、価値観をぶつけ合う。という場面をクライマックスにしてもよさそう。とすると、何もないけれど生きていられる未来に残るか、未来を変えられるかもしれないけれど、死ぬ可能性が高い現代に戻るか、を選択する場面が、この物語の一番の見どころにできたのではないかなとも思う。

ドラマの冒頭も、畑野が赤ちゃんを抱えてホームを走るシーンから始まるが、ヒロインではあるけれど、主役ではないから、始まりとしても違和感がちょっとある。
あと、タイトルに入ってる8時23分はそんなにフューチャーされない。

ストーリーテリングに難はあるものの、山田裕貴の演技は個性的で面白く圧巻なシーンも。なにより、伊豆大島などでロケされた未来シーンのロケ地は、見応えあるシチュエーションでした。

いろんな要素を詰め込みまくって、ちょっと消化不良。そんなドラマだった。
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