モモモ

バリー シーズン3のモモモのレビュー・感想・評価

バリー シーズン3(2022年製作のドラマ)
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1話(3/12)
初回からフルスロットル。前2シーズンが1セットだったので、今シーズンこそが事実上のPART2だろうか。売れない俳優達の小劇場編は終わり、TV番組製作編。時間は飛び、環境も変わり、ビリーの精神状況は最悪。シーズン1の初めよりも最悪。鬱状態。成功を掴んだ彼女の陰で居場所(劇場と演技)を失ったバリー。壊滅状態に近い組織。ホモソーシャルではなく同性愛。激動の1話。そしていきなりクライマックスのクジノー先生。どうなるんだ、本当に。

2話
ポリコレを尊重して描く作品の中でも群を抜いて多層的な作品に大化けしたな…。元より「超演技が上手い人達」が「大根役者」を演じて演技とは何かを論じる作品だったのに、今シーズンからは更に「ドラマ作品を作る」まで取り入れたので、層の厚さが尋常じゃない。グレーを描くという作中の言葉がこれ以上なく本作を表す。DV元旦那からの呪縛を振り切れずに「演技」をしてしまった彼女にとっての「かつての再演」をビリーが担う地獄。暴力性と「有害な男らしさ」のグレーゾーン。暴力を振られてる訳ではないしスタッフの一員でもないから関わりたくないと言う生々しいリアクション。明らかなモラハラではあるのだが、バリーは無関心。求めるのは父性。しかしそこにも歪みがある。愛を求めるバリー。2度目は口にしないクジノー。敵対した組織同士なのに恋人関係にはなるし、世の中は「簡単に言葉にできない」グレーゾーン。唐突に挟まれる犬の荒唐無稽なシーンで誰が監督したかすぐにわかるのがいいですね。前シーズンの「謎の劇強少女」を思い出す「リアリティの破壊」がいい。

3話(3/13)
コメディ要素が時折訪れるが、とにかく陰鬱だ。シーズン3からまるで別作品のような趣さえある。何も知らないからこそイノセントなティーンエイジャーが言う「バリーが何かしそう」で。これは的を得ているのだろう。サイコパスのような振る舞いのバリーにクジノー先生は限界を迎えて。現実と演技の境界線は更に曖昧に。MCUネタに業界風刺を散りばめて(シーズン3はこれが主体なのだろう)。逆上した叔父の報復に、やっぱり殺しに戻るバリーに、リーダー同士の愛故にごちゃごちゃな組織抗争に。

4話
うわ、そこを掘り下げるんだという「ラスアス2」的報復の連鎖譚に。喪失の悲しみを上品に演出する冒頭がたまらん。電話と役者と白髪だけで、バリーの因果を描く。フュークス、お前も共犯なんだぞ逆恨み野郎め。ロッテントマトで大はしゃぎな業界風刺は止まらず。「演技ではなくマジな感情」で好転してしまうバリー・シリーズお馴染みの不条理さ。クジノー先生復活のチャンス、だが「かつてのDV元旦那との再来」になっていた関係性は解消されてしまい。怪しい爆弾Bluetoothサポートセンターとか言うブラックコメディ。

5話
シーズン1、2で徐々に「こいつやばくねえか」を積み上げてきたバリー、大爆発。純粋なサイコパス(というよりはソシオパスか?)
配信時代になってからのロッテントマト史上主義や視聴者数史上主義に真っ向からケチをつける。懐かしの面々が出てきて「お、バリーを見ている」という安心感が。ホラー映画風味の演出も良い。セカンドチャンス、謝罪の快感を描く。これこそが冷笑だろう。サリーがマトモな感性で良かった。

6話
ビル・ヘイダー監督回のトンチキ力は何なんだ。フィックスとパンと(ドローン撮影?)空撮のみで、ここまで臨場感あるカーチェイスを撮れるなんて。凄いな。妙な生々しさは一体何なんだ。ワンカットで見せる演出術。間抜け具合がむしろ怖い。過去に追われるビリー。まさかそこまで魔の手が…なオチも最高。ビリーの元同僚がマトモすぎるのでお馴染みのポンコツ警察といるとショートコントに早変わり。ツッコミ役は大事だ。

7話(3/16)
ああ…過去の逆襲…。「素人の殺人」をコメディに。生死の境で「彼岸を彷徨う」住宅街と海の演出に脱帽。復讐を誓ったのに、どうしても殺す事が出来ずに自死を図った父親。作中屈指のマトモな大人だ。だからこそ今回のエピソードは重い。どうしても人を殺す事ができない普通の善人がいるお陰でバリーの異常性が際立つ。そして、そんな異常性にスイッチを入れた戦場での過去が真実を知る。どうなる、最終回。吹き矢を避けない男のみが癒しだ。盗作とキャンセルカルチャーへの風刺。暗闇に引き下がる演出もいい。

8話
凄まじい最終回。ビル・ヘイダー、恐るべし。ホラー&スリラーにコメディをほんの少しだけ混ぜて。シーズン1の功罪が「演技」による円環を迎える。クジノーが用いたのは演技。それに乗ったのはバリー。全てはここから始まる。円環だ。暴力とはかけ離れた「癒し」ですらはあったハンクとサリーが「暴力を行使」する側に立つ無常な展開。防音室を用いた撲殺はシュールだが、救いがない。音と液体だけで「想像させて」ホラーを演出するハンクの恐怖。役者の力も相まって「ホラー映画」の域に。償いが始まるのか、更なる墜落が始まるのか。S1第1話地点よりも底に落ちたバリーの行く末早く観たい。
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