たにたに

すずめの戸締まりのたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【扉】2022年162本目

映像美はさることながら、人間模様の描き方が抜群だなと思いました。

鈴芽と草太はいわば他人ですが、出会いの瞬間は「君の名は」のラストを連想させる"どこかで会ったことがあるような"感覚を私たちに共有します。

おそらく何かしらの繋がりがあるであろう草太は、ダイジンの呪いで子ども椅子に変えられ、その椅子は鈴芽の亡き母との思い出の品。

鈴芽の母、鈴芽、草太という3人の繋がりがここで組み立てられ、ラストシーンへのレールが敷かれる。

この椅子が三本脚であるということも良かったですね。地震によって亡くした母親に対する心の傷ともリンクできるし、直すわけでも捨てるわけでもなく鈴芽の側に寄り添う存在としての象徴でもある。

そして、
母親代わりとなって鈴芽を必死に育ててきた環との関係性も見過ごすわけにはいきません。"私の子になろう"という優しさの言葉が、時が経つにつれ責任感へと転化する。環の職場には彼女に好意を抱く男性がいるけど、それに気づく余裕もない。

サダイジンが環に取り付き、本音を語るシーンには鳥肌がたちました。
言ってしまうと関係が崩れてしまいそうな内容でしたが、環は心ではそう思ってもどこまでも鈴芽を心配し追いかけてくれていた。
2人はこれまで心の扉を閉ざしていた。
お互いの身を案じながらも、心のどこかでは自分が解決できることではないと諦めてしまっていたのかもしれない。
自分の境遇を気にかけてくれる人が2人には必要だった。
だからこそ"2人でなら解決できるかも"しれないと悟った。2人でボロ自転車に乗って故郷へと向かう姿に感動を覚える。

芹澤のオープンカーの屋根が閉まらずびしょ濡れになって自分を不憫に感じて溜まったストレスが爆発して、その後再び走り出し、ふとした瞬間に閉まって鈴芽と環に絆ができる。オープンカーの描写も何か意味を感じる。


今回、ミミズがでてくる扉を閉ざすお話でしたが、そこは今はもう人の気がない廃れた場所。しかし、そこには人々の思い出が確かにあって閉じ師はその記憶に寄り添って扉を閉じる。

そもそも我々は過去と未来が共存する世界に生きているのだと思う。
だけれども3.11のあの日を知らない世代もこれからたくさん生まれてくるし、風化してしまうことも考えられる。

新海誠はあえて特定のあの日を連想させることで、風化させねぇぞという覚悟を感じるんですよね。

今だっていつ大災害が起きるかわからない。過去に寄り添って想いを馳せて、すがる気持ちを抑えて閉じた扉は心に留めて、新しい扉を開ければいい。

きっと未来はそうやって開かれる。
たにたに

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