ヨーク

遺灰は語るのヨークのレビュー・感想・評価

遺灰は語る(2022年製作の映画)
3.9
ルイジ・ピランデッロという実在のノーベル文学賞を受賞した作家の死後の顛末をこれまた巨匠監督とされるパオロ・タヴィアーニが映画化、というとものすごい格調高い名作映画という感じがするし、実際に映画を観た感(上手く言えないが何となく映画的な満足があった感)を感じたのでいい映画なのだとは思うし面白くもありましたよ。何というか偉い映画を観たって感じの達成感のようなものもある。なのだが、そういうIQ高めな雰囲気のする『遺灰は語る』(どことなくタイトルさえも頭良さそうな雰囲気がする…)なのだが、しかし悲しいことに無学浅学な俺はルイジ・ピランデッロというノーベル文学賞作家のことも本作を撮ったパオロ・タヴィアーニという監督のことも知らなかったのである。
そんな奴がこの映画の感想文を書いてもいいのか!? と思わなくもないけど…ごめんやっぱ全然思わないわ、勝手に思ったこと書くわ、ということで思ったことを書いていこう。
ま、とりあえず簡単なあらすじからいくと、1936年にルイジ・ピランデッロという偉大な文学者がローマで亡くなって彼は「遺灰は故郷のシチリアの海に撒いてくれ」と言い残すんだけど時の権力者であるムッソリーニはその遺灰をローマから手放さなかった。まぁ多分ノーベル賞受賞者の遺灰を手元に置くことで自身の権威を発揚したかったとかそんなとこなんだろうね。んで、それから数年が経って戦後になってからルイジ・ピランデッロの遺灰はローマからシチリアへ運ばれることになる。本作はその遺灰の里帰りとでも言うべきロードムービーである。
なんか色々と重厚なテーマはありそうなんだけど、上記したように俺は監督のことも本作の核であるノーベル賞作家のこともよく知らなかったのであまり深くは観れていないと思うんだけど、しかしそれでも面白かったですよ。意外と笑えるシーンが多かったのもよかったですね。イタリアの戦後史についてもよく分からないから分からんことだらけの映画なんだけど、例えば戦後日本のGHQみたいにアメリカ軍がイタリアにも進駐していたのだろうか、そういう描写も見られたんだがそこの描写とかもユーモラスでよかったですね。問題の遺灰をローマの安置所から取り出すときの職人とのやり取りとかもノリが軽くて笑える。重厚な文芸映画でもあるんだろうけどその辺は普通に面白かったですね。あと列車で移動してるときの元イタリア人兵士とドイツ人女性とのシーンはBGMの美しさも相まってグッときたりもする。
ただ、俺はいつも映画観ながら寝てるけど本作ではかなり大事なシーンで寝てしまったようでシチリアの教会で埋葬方法をどうするかと言ってる辺りでウトウトし始めてから目が覚めたら作家の遺灰が撒かれていたのでかなり重要なシーンを見逃したのだと思われる。しかもそこから後半部分は例の作家の晩年の短編である『釘』という作品が挿入されてラストシーンに続いていくのだが、寝たせいかどうかは不明だがその展開もすんなりとは入ってこなかった。
でも劇場を出た後に本作の主役と言ってもいいルイジ・ピランデッロという作家のことをググってみたら、かつてファシスト党に入党していたことがあった、という記述を見つけてそれで本作のことはかなり腑に落ちる感じになりましたね。その事実を踏まえて考えると本作は生前の罪が清算されるお話だったのではないだろうか、と思える。作家の遺灰がムッソリーニによってローマに留められていたのもファシスト党と関係があったのならばさもありなんという感じはするし、遺骨が旅先で様々な受難に遭うのもさながら同じイタリアの大作家であるダンテの『神曲』のようでもある。死後に安住の地へとたどり着けるのかどうかはキリスト教(だけではないが)的なテーマでもある。それを思うと唐突にインサートされている感のある『釘』という短編の結末も何となく理解できてしまうのである。その死の定めが天国へと続いているのかどうか、その生で負った罪は清算して天国へ行けるのかどうか、そういう映画なのかなという気がした。
本作の冒頭とラストはおそらくノーベル賞の授賞式の会場でその場にいるであろう各分野の才人たちやセレブ達の会話ともならない会話がBGM的に流れながら建物の天井を映されるのだが、それは非常に示唆的な画だなって思いますね。まぁ、俺が寝ていた間にどんなシーンがあったのか分からないからそれを観たらまた全然違う感想になっちゃうかもだけど、とりあえずそんな感じで面白い映画でしたよ。
上記したように割とユーモラスなシーンもあるからあんまり構えずに観ればいいんじゃないですかね。でもイタリアの戦後史というかここ100年くらいの知識があればもっと色々な発見がある映画なんだろうなと思いますが。面白かったです。
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