ヨーク

ブルドーザー少女のヨークのレビュー・感想・評価

ブルドーザー少女(2021年製作の映画)
3.6
新宿のシネマカリテでやっている夏の映画祭、カリコレの二本目です。
いやー『ブルドーザー少女』というタイトルだからなんとなくバカ映画っぽいものを想像してたんだけど、真逆な感じでドが付くほどにシリアスな映画でしたね。実際に観たら思ってたのと違うっていうことはよくあるけど、違っていてガッカリしたのかいい意味で裏切られたのかというと今回は…う~~んどっちだろうなぁ…とちょっと何とも言えない感じですね。女の子がブルドーザーに乗って悪い奴を轢き潰していくようなアホな映画を想像していた身としてはそういう展開が全くなくて残念というところはあるのだが、それはそれとして真面目なストーリーものの映画としてもそれなりには面白かったです。
お話の内容は敢えてカリコレのサイトのあらすじをそのままで引用するが”母亡き後、ギャンブル中毒の父の代わりに幼い弟の面倒をみていたヘヨン。ある日、父が盗んだ車で事故を起こし、意識不明の重体に。被害者から巨額の和解金をつきつけられ、さらには住まいも奪われてしまう。しかし、その事故の裏には信じがたい事実が隠されていた。怒り狂ったヘヨンはブルドーザーに乗り、理不尽な社会をなぎ倒す!”というもの。
親父が意識不明の重体に、という部分はちょっとヘビーな感じはするが”怒り狂ったヘヨンはブルドーザーに乗り、理不尽な社会をなぎ倒す!”の部分は超バカそうな展開を期待できる感じじゃないですか。でも上記したようにそうはならないのである。大体がブルドーザーの登場が遅い。ブルドーザー自体は伏線的に序盤でチラ見せはしているのだが主人公のヘヨンが実際にそれに乗り込むのはクライマックスもクライマックスなのである。そしてそこに至るまでの100分くらいもひたすらにヘヨンが降りかかる問題に直面してどんどんどんどんその圧によって追い詰められていくというもの。そこはシリアスに貧富の差や進学コースから外れたら一気に人生の選択肢がなくなってしまうという韓国によくある行き過ぎた学歴社会の弊害や地域社会から孤立することの怖さとかが描かれているとは言えるんだが、ひたすらに不幸の連続が畳みかけられてくるからなんか途中でお腹いっぱいになっちゃったというのはあったな。
いやだってそれらの諸問題が一個も解決されずにずーっとストレスフルな展開ばかりが続くんですよ。『おしん』かよ!? って感じですよ。いやまぁ『おしん』に比べたら主人公はただ耐えるだけの人物ではなくてグイグイと社会の理不尽とかに噛みついていく人物なんだけど、でもそれも空回りがずっと続くので小さなスカッとポイントさえないんですよ。ちょっとそれはリアルではあるかもしれないが娯楽映画としては退屈で弱い構成だなと思いましたね。例に挙げた『おしん』は映画ではなく連ドラなのでまた話は違うんだが…。
まぁそんな感じでクライマックスまでひたすらストレス展開が続く上に基本的にリアルな作風なので最終的にもあんまりスカッとはしない映画でしたね。そこは『ブルドーザー少女』というタイトルのインパクトが強すぎてちょっとそのイメージから外れてしまっているのかな、と思う。
ただいわゆる鬱映画という感じではなくて上記したように主人公の少女のキャラクターはものすごく良かったですね。ちょっとでも理不尽だったりアンフェアだったり不義理だったりなことが成されると大人相手でもまったく物怖じせずに凄んでいって、なんなら口よりも先に手が出るくらいの狂犬ぶりを最初から最後まで発揮しているので彼女を観ているだけで面白かったというのはありますね。なんか昭和の仁侠映画を思わせるような義理人情や物事の筋が通っていないと納得できないという人間で、それが龍の入れ墨入りの10代の少女だというのだからそこだけやたら漫画チックな感じはある。法律なんて関係ねぇ、筋が通らない奴はぶっ飛ばす、みたいな。そこがまた作品全体の現実的な雰囲気と比べてアンバランスな感じもするのだが、個人的には主人公の役者さんの立ち居振る舞いや啖呵が気持ちよかったのでアリです。弟とじゃれてるときの年相応な感じは素直にかわいくて良かったな。
まぁそんな感じでどういうものを期待して観るかでかなり印象は変わりそうな映画ですけど、まぁ面白かったとは思いますよ。入れ墨背負って(腕だけど)てタンクトップでショートカットで姉でやたら喧嘩っ早くて曲がったことが大嫌いでややSっぽい雰囲気を持っている主人公、と書けばもうそれだけである種の人は100点付けそうなキャラクター像ではありますね…。別に俺の好みにドンピシャというわけではないけど、でもこの映画で一番面白かったのはやっぱ主人公のキャラクターだったかなとは思います。
ちなみに先日観たインド映画の『ガルギ 正義の女神』という作品も父のために娘が奮闘するというお話だったんだけど、物語の展開も主人公像も凄く対照的な作品なので両者を観比べたら面白いだろうなぁ、と思いますね。早稲田松竹やってくれ。
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