むぅ

マチルダ・ザ・ミュージカルのむぅのレビュー・感想・評価

4.1
私の永遠の"推し" マチルダ。

母のおかげで幼少期、様々な児童文学に触れた。
そんな中で、その空想ごっこには付き合える自信ないわという『赤毛のアン』や、私はそこまでポジティブになれないという『少女パレアナ』、遊ぶ約束しても家族行事優先で断られそうという『若草物語』の四姉妹たち、王子様というだけでよく知らん奴に着いていくなよという数々のプリンセス達みんな大好きなのだが、今作の原作『マチルダは小さな大天才』のマチルダは特別大好き。
小5まで"背の順"でずっと1番後ろを陣取っていた身としては、小柄なマチルダに大いなる憧れもあった。

幻じゃなかった!
Netflixで今作が配信になると知ったのは数ヶ月前。待てど暮らせど配信になる気配は無く、幻だったのか?とさえ思い始めていた。


6歳のマチルダは、文学と数学において天才的な頭脳を持っていた。
ところが両親も校長先生も、物静かで賢いマチルダを"バカ"扱い。
そんな中、マチルダの才能に気付くハニー先生との出会いが訪れる。マチルダの運命は..!

私にとっては最も歌って踊らなそうなキャラクターの1人であるマチルダ。そんなとこも大好き。
でもそんなマチルダのミュージカル。
「マチルダは歌って踊るタイプじゃないもん」という私のしょうもない拘りは一度しまっておく。
推しは燃えない限り見守る。
いや燃えても見守る。

しかし燃える気配など無く、楽しく仕上がっていた『マチルダ・ザ・ミュージカル』
とくに学校のミュージカルシーンが楽しいし、可愛い。
絶対に行きたくない学校ランキング上位に入りそうなものなのに、みんな楽しそうだなと思えてしまうので音楽とダンスのチカラは偉大だ。

自分のように、友達のように思っていた物語の主人公たちは、いつしか随分と年下になっていく。
それでも、私は今でもマチルダと友達になりたい。マチルダに憧れて「私も1人で図書館に行きたい」と母に申請し、小1の頃1人で図書館へ繰り出した。自分には難しそうな本をカウンターに置き、貸し出し手続きをした時の"私ってば何てオトナ!"感は、1人で蕎麦屋で飲めるようになった時のそれを遥かに上回る。背伸びし過ぎた数冊を読まずに返却した時の敗北感は、もはや慣れてきた「どうして大丈夫だと過信したんだ」と最後の一杯のせいにする二日酔いの敗北感よりも自分にのしかかった。

「大人なんて汚い!」
そのような反抗や不信感を持つことの多い10代後半、全くそんな感情を持たずに過ごしたのは児童文学のおかげではないかと最近になって思う。児童文学にはもっと酷い大人たちが沢山登場していたから。汚い大人も、そうではない大人も、たくさん描かれていた。
[もう汚いとかの域は凌駕し、人の所業ではないで賞]を差し上げたい大人が今作には多数登場する。しかもそれが両親と校長先生、なかなかに最悪である。
そんな彼らにマチルダは静かに賢く、確実に反撃する。
もう私も大人なので、あまりにアホに描かれる大人たちが多少気の毒になったりもする。
でも、ここまでではなくとも、とんちきな大人というものは存在する事も、また大人になっているのでよく分かる。
マチルダの反撃は必ず他人の目に触れるように行われるところが、賢さとちゃんと子どもらしい残酷さが現れていると思う。
そして原作よりも子ども達が逞しく描かれているところが何だか良い。

口に出す前に考える、まず自分なりの結論を出してみる、その聡明さを持つマチルダに学ぶことは多かった。
そしてそんなマチルダの心の中や、頭の中を表現するのにミュージカルは良い手段なのかもしれない、と思った。マチルダの想像力豊かなところも私は大好きなのだ。

生きていると、やっぱり今日も飲んじゃおうという決断から、人生を左右する決断まで、たくさんの決断をし続ける。
マチルダの決断が、自分のためだけでなく"誰かのため"が増えていくところも好きなところ。
そして何より、私はマチルダが最後にする決断が大好きだ。一生、推せる。

映画だけではなく、お芝居でも小説でもそれこそお酒でも何でも、色んな種類の"好き"がある。自分が好きなものを他の人も好きと言ってくれたら、やはり嬉しい。
けれども、時折例え酷評されようとも大嫌いと言われようとも揺るがない"好き"に出会う。
今作の原作、ロアルド・ダール著『マチルダは小さな大天才』は、私にとってそんな存在。

1個だけ。
挿絵のハニー先生の鼻から落ちそうな丸眼鏡が大好きだったから、そこはそのままにして欲しかったな、なんて。
でも今作のハニー先生も素敵だった。小さなマチルダにちゃんと自分の本音を言い、時には弱音も吐ける大人として描かれていた原作のイメージはそのまま。
誰に対してもフラットでいられる事って素敵だ。


「クリスマス嫌いだっけ?」
友人からLINEがきた。
「いや?なんで?」
「久しぶりにFilmarks開いたら、むぅの八つ墓村のレビューが出てきたイブの朝。あれは呪い?」
「そりゃすみませんね」
「らしいなって」
どう見られてるのか多少疑問は残るものの、クリスマスを特に気にせず過ごしている身にもサンタさんが来てくれる事はあるらしい。
私は25日に今作が配信されているのを見つけた。
サンタさん、ありがとう。
「隣の部署の仕事が出来る鈴木亮平とか、よく行くバーで出会う佐々木蔵之介とか、何でもいいから綾野剛とか届けてくれなかったけど、『マチルダ』は届いた」
「クリスマスは七夕じゃないから」
「え、七夕ならその願い叶うのか?」

既読スルー。
いい、推しのマチルダに会えたから良しとする。
ちょっと私の想像とは違ったけれど、今作のマチルダも好き。

"推し"というのは凄い。
むぅ

むぅ