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アヘンのbackpackerのレビュー・感想・評価

アヘン(2022年製作の映画)
3.0
第35回東京国際映画祭 鑑賞第10作『アヘン/OPIUM』
【備忘】
マルクス主義の生みの親カール・マルクスが説いた「宗教上の不幸は、一つには現実の不幸の表現であり、一つには現実の不幸に対する抗議である。宗教は、なやめるもののため息であり、心なき世界の心情であるとともに精神なき状態の精神である。それは民衆のアヘンである」という言葉。
この「宗教はアヘン」という言葉に着想を得て作成された5話の短編からなる、"宗教"を検証したオムニバス作品。

この言葉単体で考えると、宗教は麻薬=危険な存在であるような印象だが、本作からは、宗教に対する受け止め方や宗教の役割についての強弱が、明確に表現されている。
それは、「宗教がもたらす最悪の状態」と「宗教と共にある朗らかな状態」の書き分けであり、5つの短編では最悪の状態→朗らかな状態へとグラデーションをつけて変化していく。監督が宗教に抱く思いが、シリアスかつユーモラスな形で表出されたことも興味深い。


ビジュアルインパクトが最も大きい第2話『盲目』については、観客・監督双方思い入れも強いのか、ティーチインでの監督発言内容の大半を占めていた。
個人的には、本というモチーフがディストピア SFにおいて用いられる時、大抵は"喪ってはならない大切な物"の象徴として描かれている印象がある(『華氏451』の焚書、『1984』の日記、『ザ・ウォーカー』の聖書、等)。
しかし本作では、「本を読む人はその内容を何でも鵜呑みにして信じ込み邁進する。その危険性を説いた」と監督が語るように、視野狭窄を陥れる危険な物の象徴とされている点がユニーク。

多面的かつ多様な考えで情報を精査することこそ、受取手である我々消費者が行うべき最大の仕事。改めて、考えさせられた。
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