あなたが覗くのは、欲望の最狂到達点。

キム・デウ監督、ソン・スンホン、チョ・ヨジョン、パク・ジヒョン等の共演による韓国製作のサスペンスで、アンドレ・バイズ監督、コロンビア、スペイン製作『ヒドゥン・フェイス』のリメイク。
婚約者が突然失踪した主人公が、新たに現れた女性と関係を持った先に巻き起こる出来事を描く。
オリジナルは未鑑賞。
主人公となる指揮者のソンジンをスンホン、婚約者でチェリストでもあるスヨンをヨジョン、スヨンの代打として登場するミジュをジヒョンが演じているほか、パク・ジヨン、パク・ソングン等が登場。
物語は、婚約者であるスヨンからの別れのメッセージがPCのディスプレイに映し出され、それを見つめるソンジンの姿でスタート、二人の間に何かがあったのだろうなと思わせるオープニングとなっている。
その後、オーケストラの公演に間に合わないため、代打として登場したミジュの魅力に惹かれたソンジンが、ミジュと関係を持つこととなり、以降、ありがちなメロドラマのように、スヨンも含めたドロドロの三角関係に陥るかと思いきや、そうならないのが本作品の肝であり、中盤以降、回想シーンが挿入されつつ、何があったのか、そしてスヨンがどうなっているのかが明かされる展開に目が離せなくなることに。
何より、ミジュを演じたジヒョンの美しさが際立っており、言葉とは裏腹にソンジンを誘う様子はあざとさ満点で、思わず美人局かと疑ってしまうほど。
反面、二人の情事のシーンは、確かに他の韓国作品とは一線を画すもので、R18+指定も納得なのだが、そのパートについては、全体からすると僅かであり、主眼はそこではなく、サスペンス色が強い作風であったのは意外だったところ。
クルマ好きの視点からすると、ミジュの愛車が日本ではあまり見たことのない明るいグレーのような色のフィアット・500であり、彼女の雰囲気にピッタリであったのは見逃せないポイント。
男女三人それぞれの愛の物語とサスペンスのバランスが見事で、ラストもそう来たかと唸らせる内容であったとともに、ミジュを演じたジヒョンが広末涼子と杏の雰囲気を併せ持っていたため、もし邦画リメイクがあるとするならば、主人公を綾野剛、婚約者を木村佳乃あたりをキャスティングして、広末の復帰作として位置付けると話題を掻っ攫っていきそうな一作。

部下でもあるし、奴隷でもある。

本作は、密室スリラーの形式を取りながら、実際には「欲望がどのように人間関係を歪め、支配へと変質していくか」を執拗に観察する心理劇だと感じました。2011年のコロンビア映画『ヒドゥン・フェイス』を原作としつつも、本作は単なるリメイクに留まらず、韓国社会特有の階級意識や所有の感覚を物語の中核に組み込むことで、より倒錯した関係性へと踏み込んでいます。

特に印象的なのは、「近くにいるはずの他者が、決定的に遠い存在として描かれていく」構造です。同じ空間を共有し、同じ時間を過ごしているはずなのに、感情や意志だけが一方通行で流れていく。そのズレが次第に疑念や欲望を肥大化させ、関係性そのものを侵食していく過程が、非常に冷酷に設計されています。

キム・デウ監督は、人物同士の距離を台詞や説明で埋めることをしません。「見えているのに届かない」「共有しているのに理解できない」という感覚を、視線や音、そして間の取り方によって積み重ねていく。そのため観る側は、物語を追うというよりも、関係性が静かに歪んでいく“構造”そのものを体感する立場に置かれます。

本作が描いているのは、恋愛の破綻というよりも、所有や管理といった歪んだ欲望が、どのように人を支配へと導いていくかというプロセスでしょう。愛したいという感情と、完全に把握しておきたいという衝動が同時に存在したとき、関係はどこへ向かうのか。その問いが、エロティシズムと不穏さを伴いながら、前半から静かに積み上げられていきます。

一方で、スリラーとしてのリアリティやプロットの整合性に違和感を覚える場面があるのも事実です。ただそれは欠点というよりも、本作が現実的な説得力より「寓話としての毒」を優先した結果だと感じました。観る側がその前提に乗れるかどうかで、評価が大きく分かれる一本だと思います。



※以下、ネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

































物語の中盤以降で明らかになる仕掛けは、本作を単なるサスペンスから、「欲望の構造を可視化する装置」へと変貌させます。ここで重要なのは、閉じ込められること自体よりも、「見ることはできるが、伝えることができない」という非対称な関係性です。視線だけが一方通行で通過し、声や意思は遮断される。この設計によって、欲望は共有されるものではなく、観測され、消費されるものへと変質していきます。

スヨンが失っていくのは、恋人への信頼以上に、自分が立っていた支配の位置です。彼女は当初、相手を管理し、把握する側の人間として振る舞っていましたが、その立場が崩れた瞬間、観測者から受刑者へと転落していく。ここで描かれる苦痛は、裏切りそのものよりも、「世界に介入できない立場へ落とされること」によるものとして表現されているように思えました。

ソンジンもまた、成功者でありながら常に不安定な存在として描かれます。成り上がった地位と上流階級への依存、その間で揺れる劣等感が、「許されない逸脱」への欲望として噴き出していく。彼の行動は愛情というよりも、自身の男性性や主体性を確認するための衝動に近く、結果として誰に対しても誠実ではありません。

ミジュはさらに露骨に、階級構造の歪みを体現する存在として位置づけられます。彼女にとってソンジンを奪う行為は、恋愛の成就ではなく、かつて見下してきた相手から「最も価値のあるもの」を奪取する復讐です。後半で彼女が意図的に“見せる”行為へと踏み込んでいく場面は、セックスが親密さではなく、階級間の代理戦争へと変換される決定的な瞬間でした。

繰り返し流れるシューベルトの『アルペジオーネ・ソナタ』も、この関係性を象徴しています。一時代だけ存在し、その後消えていった楽器のために書かれたこの曲は、代用品として生きる存在の哀しみを内包しています。ミジュは代替として入り込みながらも、単なる代用品では終わらない。その欲望が顕在化したとき、関係は必然的に破綻へと向かいます。

結末で描かれるのは、因果応報でも解放でもありません。反逆者は排除されるのではなく、管理され、組み込まれる。支配は終わるどころか、むしろ完成していく。この選択は、階級構造が固定化された社会の冷酷さを強く示唆しています。誰も裁かれず、誰も救われないため、観後感は意図的に不快なまま残されます。

本作が観る側に求めているのは、登場人物への感情移入ではなく、冷静な観察者としての立場です。欲望がどのように増幅され、どのような構造の中で暴力へと変質していくのかを見届けること。その居心地の悪さこそが、『秘顔』という作品の核心であり、同時に私たち自身の覗き見的な欲望を突き返してくる鏡なのだと思いました。

U-NEXTポイント消化＆久々のソン・スンホン主演映画だったので・・。

何の情報も知らずに見始めたが途中で2011年制作のコロンビア＆スペイン映画「ヒドゥン・フェイス」（いつの間にか「密室の女 奪われた情事/ヒドゥン・フェイス」というチープな邦題に変わってる！）のリメイクだと気付く。

本当はこのオリジナル版のタイトルさえ出した時点で一種のネタバレになるかと思い躊躇したが、このページに埋め込まれた予告サムネイルで設定だけはバラしているし、13年も前の作品のリメイク、かつ、韓国お得意のオリジナル版からの換骨奪胎が巧みで、全く異なるストーリー展開＆キャラ設定になっているので「ヒドゥン・フェイス」を既にご覧頂いている方でも十分に楽しめると思う。

“彫刻美男”の異名を持つソン・スンホンがアラフィフとはとても思えぬ程に相変わらず端正な顔立ち、かつ、圧倒的な肉体美。序盤のベッドシーンが重要な意味を持つ作品なので、確かにこの役どころに彼はピッタリ。
まじで変な意味でなく自分の中でいわゆる、“なりたい顔＆身体”だわ。

また、本作より激しめの濡れ場を披露した「情愛中毒」のメガホンを取ったキム・デウ監督なので、ベッドシーンの見せ方も程よくエロく、美しい。

キャラクター的にもミステリアスさと多様な感情を併せ持つ役なので、ソン・スンホンの役の幅も広げた感。

「パラサイト 半地下の家族」のIT社長夫人役のチョ・ヨジョンも全く異なるイメージの役どころで好演。彼女もキム・デウ監督の「後宮の秘密」で大胆なヌードを披露しているが本作では演技で勝負。また、「情愛中毒」ではソン・スンホンとも共演しているので二人の相性はバッチリ。

キーパーソンとなる役どころを演じたパク・ジヒョンは身体を張った大熱演。また、序盤は何故主人公が彼女に惹かれるのか分からぬ程に地味な印象ながらもストーリーが進むに連れてどんどん魅了的に見えてくる。

前述した通り、オリジナル版の「ヒドゥン・フェイス」とはかなり異なるストーリー展開となるが、そこに加えられた一つの要素は公式サイトを読んでしまうと勘が鋭い方にはピンと来てしまうかもしれないので、避けた方が無難。

個人的には終盤までどういう展開になるのかドキドキしながらも大いに楽しめた。また、濃厚でリッチな色遣いの映像や、主人公が住む豪邸のセットがとにかく美しい。

終盤になって、主人公の思考がイマイチ視聴者に伝わりづらくなり、エンディングも個人的には唐突かつ微妙に思ってしまったのがマイナスポイント。でも、アジア映画でこの世界観を表現出来るのは素直に感心。

ベッドシーンは序盤に二回ほど登場するくらい（でも重要な意味を持つ）なので、個人差はあるだろうが、エロが苦手な方でもサスペンスミステリーが好きなら十分に楽しめるかと思う。

事前に「ヒドゥン・フェイス」を鑑賞しておいたほうがより楽しめるかも。

にしても、「ロスト・ボディ」→「死体が消えた夜」、「インジブル・ゲスト 悪魔の証明」→「告白、あるいは完璧な弁護」と、韓国映画界はスペインミステリー映画のリメイクも本当に得意だなあ。

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