若き青春の日々の繊細な心の揺らぎ、寄せては返す狂おしい恋心の、淋しさに、妬ましさに、天にも昇る喜びが、ノスタルジーを喚起するに留まらない詩情豊かな映画芸術の芳醇として、その甘美を観るものに与える。
ありやしない、おもいでの夏の初体験。

経験とは喪失の、ひと夏の成長の一編。

ひと夏と一夜が過ぎた頃、潮が引くように、変わらないはずの想いが静かに消えてゆくのがわかる。
ふさいだり、はしゃいだり、今の今まで恋をしていたはずなのに。
こんな風に、愛してるの言葉を無邪気に確かめ合って過ごす幸福な日々はもうやってこないんだって思う。

夏の終わり。
愛したくても愛せない哀しみを覚えて、私たちは変わってしまう。思い出だけを手にして。

フランス女流作家コレット・ウィリーの同名小説が原作。
フランス、ブルターニュ海岸。生まれた頃から家族で毎年夏のバカンスを過ごす二人。16歳になる少年フィルと15歳の少女ヴァンカの夏物語。

突然の突風で荒れる海から逃げ帰る人たち。そんな中、何故か子供たちの体にロープを付けてまで泳がせてる女教師二人が、沖から変な男があがってくると、子供たちと逃げ出す。
海に出ていたフィルのボートがひっくり返り、危うく溺れそうになり、全裸で何とか岸に着いたのだ。
フィルは子供が忘れていった帽子で股間を隠しながら別荘に戻るが、警官が公然わいせつ罪だとついてきている。
という可笑しなオープニング。

ヴァンカとフィルは、幼なじみの関係から一歩進めたいようだが、事あるごとにぶつかってしまう二人。
2人で映画に行こうと出かけようとしても、揉め事でヴァンカが行かないと言いつつ、結局フィルを追って映画見たり。
映画のキスシーンで盛り上がる観客に嫌気して外へ出たヴァンカとフィルは、初めてキスする。

翌日、ビーチにいる2人。ヴァンカがキスしようとすると何故か避けるフィル。とにかくじれったいんですよこの2人。笑
そこに車で来たマダムがフィルに道を訪ね、そのやり取りにヴァンカがまた嫉妬してる。
その後、マダムに電報を届けにきたフィルはマダムの家に誘われワインをご馳走に。

この後は、マダムに導かれるフィルと、フィルと上手くいきそうでいかないヴァンカのあれこれが。。

このマダム、フィルの母親と歳も雰囲気も近いし、ヴァンカが一番可愛くて魅力的なのに、女友達のマルゴともキスしてみたりのフィルの言動がおかしすぎて、段々コメディに見えてくるという作品でした。笑

キスをしたら、世界は変わって見えると思っていた。

友達以上、恋人未満の少女との、ただ柔らかく触れただけのキスに失望した少年。バカンス先の海辺で有閑夫人と出会う。彼女から漂う大人の色香にいざなわれるまま、初めて女と肌を重ねる。

原作を読みかけたままだけれど、コレット小説の繊細さや官能性、ほんの少しの残酷さを、この映画は受け継いでいると確信できる。
彼女が描く大人の女は美しく凛々しい。若さを眩しく思いながら、今の自分と向き合う強さをもっている。オータン=ララ監督が色づけし、エドウィジュ・フィエールが魅せる夫人も、気品に満ち溢れている。羽ばたいた後に一片の羽根も残さぬ潔い女っぷり。

この恋を愛と呼べば最後。そうなる前に、ひと夏の思い出にしてしまいましょう。夫人は姿を消した。残された少年も、裏切られた少女も、それぞれ恋の痛みを抱えることになる。

そんなふたりの対話は、思春期を迎えたばかりの男女のものとは思えないほどほろ苦い。できることなら、恋も痛みも知らぬ頃に戻りたい、けれどそれは叶わない。ひと夏の思い出を胸に抱いて、彼らは共に大人になる。
作品を抒情豊かに彩る音楽は、海岸を去るふたりの後ろ姿に重なって、夏の終わる切なさを残す。