タケオ

ヘル・ディセントのタケオのレビュー・感想・評価

ヘル・ディセント(2022年製作の映画)
2.9
-'永遠の中学生'ニール・マーシャルは、カーペンターとミラーと嫁を愛し続ける『ヘル・ディセント』(22年)-

 ジョン・カーペンターとジョージ・ミラーをこよなく愛する'永遠の中学生'ニール・マーシャルの作品は、常に「カーペンター的なもの」「ミラー的なもの」のパスティーシュのうちに留まる。近年ではクエンティン・タランティーノやロブ・ゾンビなどパスティーシュ以上のものをみせてくる作家も少なくないが、やはりマーシャルの作品がパスティーシュ以上のものになることはない。それこそがマーシャルが'永遠の中学生'たる所以である。
 本作『ヘル・ディセント』(22年)は、そんなマーシャルが相変わらずの'中学生っぷり'を遺憾なく発揮した本当にどうしようもない作品だ。舞台は2017年のアフガニスタン。英国空軍の女性大尉が米軍兵士たちとともに、旧ソ連が生んだクリーチャーの大群に立ち向かう。映画の発想がデビュー作『ドッグ・ソルジャー』(02年)からまったく進歩していないことに、まず驚かされる。『アパッチ砦』(48年)『特攻大作戦』(67年)『要塞警察』(76年)『ザ・フォッグ』(80年)『マッドマックス2』(81年)『遊星からの物体X』(82年)『プレデター』(87年)etc ───と、列挙するだけで赤面してしまうような「カッコいい映画」のエッセンスを、マーシャルは臆面もなく堂々とぶち込んでいく。本作にはフックとブロムヘッドという名前のキャラクターが登場するが、おそらくマーシャル自身のフェイバリット・ムービーのひとつ『ズールー戦争』(63年)に登場するキャラクターの名前をそのまま借用したものだろう。もちろん、そこに深い意味など微塵もない。ただマーシャルが愛するものをぶち込んでいるだけなのだ。ゆえに、それが'新たな表現'へと昇華されることはない。「カーペンター的なもの」「ミラー的なもの」のパスティーシュで満足してしまう限りは、やはりマーシャルはどこまでいっても'中学生'のままだろう。
 ところで余談だが、マーシャルと主人公シンクレアを演じたシャーロット・カークは実生活で夫婦関係。本作の脚本も2人で共同執筆したものである。マーシャルしかり、マイク・フラナガンしかり、ポール・W・S・アンダーソンしかり、ロブ・ゾンビしかり、どうやらホラー作家は自分の嫁を自慢したがる傾向があるようだ。本作にも、マーシャルの「俺の嫁は世界最高だ!」という魂の叫びが込められている。マーシャルは自分に正直な永遠の'中学生'だ。ジョン・カーペンターとジョージ・ミラーと嫁への「愛」は間違いなく本物だろう。ただ、それが映画そのものを面白くするかどうかはまた別の話だ。
タケオ

タケオ