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怪物のorangejuiceのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

立場の違い、目線、思い込み、先入観でこれほど事実は変わる。
事実はひとつだけど、真実は人の数だけあるという言葉は、誰の言葉だったろう。

安藤サクラの子を想う無償の愛、その闘う姿勢に胸を打たれる。心震える。子を守りたい。けれどただ普通の幸せ、という言葉の持つ加虐性。

社会、クラスメイトからのいじめをうける星川くんに、みんなの前では話しかけないでと言ってしまう湊。
その自分の小ささに苦しみ続ける。彼は彼自身を守る、それはシングルマザーである母親を守ることでもあって。それは決して間違いではないはず。

瑛太演じる先生は序盤ただひたすら不気味さと暴力教師、加害者のイメージしかなかった、なのに。
真実はどうだろう。ふざけてると言われた弁解、そして飴を舐めた訳。

誰が怪物なのか。一人一人にフォーカスをあてた時に、人間じゃない、というほどの怪物は果たして存在したか?
怪物は誰?と怯える自身の心に、異物を受け入れたくない狭小な心に、怪物の種が芽生えてはいなかったか。

湊と星川くんの2人の秘密基地。そこだけがただただ静寂で正常で。透き通った空気が流れる。
食パンに蜂蜜を綺麗に塗って美味しいと食べる2人。それだけで涙あふれる。その幸福が永遠に続きますように、と思わず祈ってしまう。
人に言えない恋は心を蝕む。愛すれば愛するほど、側から見たらそれはただの狂気になって行く。その狂おしいまでの愛が、強い説得力を持って、純粋がゆえに出口が見つからないまま描かれていて。
星川くんはなにも求めない。湊のあるがままを受け止められたのは、星川くん1人なのかもしれない。愛情の塊である母でさえ、父というフィルターをとおしてしまう。普通の幸せとはなんなのだろう。

誰もが手に入れられるものが幸福、その言葉にとても重要なことが含まれている気がして何度も考えたけれど、まだ答えに辿り着けないでいる。
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