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殺人に関する短いフィルムのhorahukiのレビュー・感想・評価

殺人に関する短いフィルム(1987年製作の映画)
3.8
シリアルキラー系の作品で監督が参考にしたって語っていたり(最近だと『フリッツホンカ』のファティアキン監督)、良くレビューで引き合いに出されていたりするので、見といた方が良いなって思って初のキエシロフスキー。

2つの殺人が本作では描かれるのだけど、装飾することは一切しないドライな筆致が「人を殺す」ことの重みを物語っていて、特に2つ目の殺人のやるせ無さと言ったら…😱

殺す人・殺される人。双方に生身の人間として抱えているものがあるということは色んな映画で描かれてきたわけだけど、本作はそういった加害者・被害者への理解を観客に促すことによって、犯人にも同情の余地があるよね?といった「意味のある殺人」的なわかりやすさを提供するものではなく、「人を殺す」ということはどういうことなのか…ということをあるがままに突きつけてくるから、心を抉られるような強烈な余韻を残していく。凄まじい作品!

左右なり上下なり、光と闇を同一画面内に両立させた映像が非常に多く、加害者側にも被害者側にも(たとえ表面上はムカつく奴に見えたとしても)片面的ではない複雑な内面がその奥には存在しているのだという生身の多面性を強く印象付けてくる。

とはいえ、殺人の理由を解き明かすようなことはせず、なぜ殺人が行われたのか、なぜその相手を選んだのかといったことは、はっきり言ってよくわからない。ただ、過去の直接的ではない過ちによって居場所を無くし、さらにはその過ちが自己の存在価値すらも地に落とすものであったがために絶望的なほどの自己否定が生まれ、外にも内にも支柱となるものを失い空っぽになった彼の行き場のない叫びだったのではないかって思った。

そう言った人間を救うどころか、貶めることしかできなかった現実に胸が苦しくなるし、彼からその必死の叫び声が漏れ出てしまった時点でもう行く先は決まってしまうのだという無慈悲さと否定したいけど否定できない正しさの表裏に心を押し潰されたような衝撃を受けた。

殺人の生々しさも凄くて(グロさはないけど…)、素人がそう簡単にできることじゃないってのが良くわかる。だからこそ、それと対比したクライマックスのプロによる殺しにすっごい嫌悪感が生まれてる。あと、ネコの首吊り映像があるんでネコ好きは注意!

今日『エスケープルーム』見てきたんだけど、この時期でも映画館は割と人がいて驚いた。『エスケープルーム』は全然入ってなかったけど😅
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