映画大好きそーやさん

夜明けのすべての映画大好きそーやさんのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

〈2024/1/30加筆修正①・2024/1/31加筆修正②〉
試写会にて鑑賞しました!
三宅唱監督自らが登壇しての、観客とのトークセッションでは所々で笑いが漏れていたり、様々な角度からなされる質問に真面目に答えていたりと、最初から最後まで非常に興味深いものとなっていました。
自分からの質問ができなかったことだけが心残りでしたね。
兎にも角にも試写会はそう頻繁に参加できるものではないですから、本編、トークパート共々、全力で楽しませてもらいました!
さて、ここから本編のレビューに入っていきたいと思います。
夜明けへと至る道程。
良くも悪くも、瀬尾まいこ原作を期待し過ぎたのかもしれません。(ちなみに、原作の方は未読です)
余白と言えば聞こえはいいですが、無駄に感じる描写が多かったのがかなり気になりました。
シーンのつながりで一定の意味を見出せる描写であるにせよ、露骨な、言ってしまえば下手なフリに思えるものばかりで、端的に言って冷めてしまいました。
キャラクターの面でも、山添の恋人である大島が物語に有機的に絡むことなく退場していき、そこに本質がないのであればカットしても良かったのではと思わざるを得ませんでした。
恋人でも、ある種の理解者でも、何であれそのキャラクターの必要性がより感じられる描かれ方である方が、物語に視点が増え、多層的な強度が生まれるように感じました。(一般人に近い視点として配置しているとも捉えられそうですが、それにしても処理の仕方の弱さは拭えず、誇張された周りのキャラクターの個性、役割を鑑みて、もっと描き方の、立ち位置の脚色が必要だった気がします)
また、病気を扱う作品として、それらの症状と真剣に向き合って苦しんでいる人もいるのに、コメディシークエンスとして消化している箇所が幾つか見受けられたのは、私の感覚では不快でした。
原作からの問題点である可能性もありますし、当事者から見れば寧ろよくやった!と賞賛されるシーンかもしれません。
ただ個人的には、胸に蟠りをつくるシーンでしかありませんでした。少なくとも、本作だけを観た病気の扱いは良い印象を抱きませんでしたね。
この点に関しては、他の方の意見も聞いてみたいです。是非コメント等で、どう感じたか教えて下さい!(追記:どうやら、大方の人たちには好意的に受け入れられたようです。私が考え過ぎていただけなのかもしれません。初見の感想は大事だと思うので、書き換えたり、消したりする等のことは致しませんのでご安心下さい)
全体を通してコメディシーン自体は多いのですが、個人的には1つだけしか笑える箇所がなく、常に薄らスベっている感覚で、観ていて辛かったです。(他の観客からは笑いが零れているシーンもあったので、ハマる人がいない訳ではないと思います。その点は悪しからず!私が笑ったのは、藤沢さんが山添くんに、2回目の差し入れを渡すシーンです。あの場面はまずフリ自体の面白さがあり、渡した物が大喜利として、しっかりとオチになっていました)
劇伴も平凡かつ同じものばかりが使われていたため、退屈さを感じる私がいました。
もし予算等に余裕があれば(或いは、この一本調子の劇伴でなければならない、絶対的な意図がなければ)、よりそういった面にも色をもたせて、本作で伝えたいこと、描きたいこと、やりたいことを明確にしてほしかったです。
明確というのは、分かりやすいエンタメ的な演出をしてほしいのではなく、各シーンの趣、キャラクターたちの心情に合った劇伴が幾つも用意されていれば、より物語への没入度が高まったり、感情移入がしやすくなったりしたのではという意味です。
それぞれのシーンに、それぞれの意味があるのは間違いのないことで、だからこそ1つの劇伴に頼るのは勿体ないなと思ってしまいました。
ただ良かった点が全くなかった訳ではなく、上白石萌音演じる藤沢さんが忘れていった物を松村北斗演じる山添くんが自転車で届けに行くシーンは、他のどのシーンよりも抜きん出て美しく、素晴らしいものでした!
あの一連のシークエンスが観られただけでも、鑑賞価値があったと言い切ることができます。
山添くんの成長ともリンクした、圧巻のカットに感服した次第です。
トークセッションの方でも、そのシーンには特に力を入れたとの言葉もあって大いに納得しましたね!
また、栗田科学の同僚たちも皆温かく、寓話的にも受け止められる彼らの優しさに、心の中でずっと拍手を送っていました。
彼らのような、心に余裕をもった人がもっと増えてくれることを祈るばかりです。勿論、自分自身もそうなれるよう努力するべきですが!
あと、物語の流れとして少々作為的に感じる部分ではありましたが、「自分の発作はどうにもならないんですけど、3回に1回くらいだったら藤沢さんのこと助けられると思うんですよ」という山添くんの台詞は素直に素敵だと思いました。
精神面や身体面、その双方において「完全」である人はおらず、それ故にこの言葉は病気をもっているから適用されるものではないと言えるでしょう。
2人の関係性の本質、ないし本作のテーマの帰結として申し分のないもので、今後の人生でも大事にしたい言葉となりました。
総じて、足を引っ張る部分が多いにせよ、切り込んだテーマ性の鋭さ、要所要所光る構成要素に魅せられた作品でした!