ヨーク

ファミリー・ディナーのヨークのレビュー・感想・評価

ファミリー・ディナー(2022年製作の映画)
3.5
『ファミリー・ディナー』というタイトルでホラー映画だというと、もうそういう展開なんだろ? アレやっちゃうんだろ? としか思えないのだが、安心してください、やってくれます。ま、そういう意味では期待に応えてくれるいい映画ではあったんだが、そこは何というかだね、ストレートに言うと意外性のない映画だったという感じもあるんだよな。でも面白いは面白かったですよ。
お話も分かりやすいもので、主人公はメインビジュアルにもある通りにやや太り過ぎなおデブちゃんの少女なのだが、彼女の叔母は高名な料理研究家で栄養士でもあるという。田舎で自然いっぱいのスローライフを送りいい感じの肉や野菜をいい感じの料理にしながらいい感じの生活を送っているのだ。主人公はイースターの休暇を利用してそんな叔母の元を訪ね、ダメ元でダイエットのお手伝いを頼むと快くOKされて大喜びするのだが、叔母が提示するダイエットは非常に厳しいものであった。そればかりかやたら主人公に嫌がらせをしてくる従弟やどこか不穏な感じのする叔母の再婚相手などが絡んできて不気味で悪夢的なイースター休暇が始まる…というもの。
正直大筋としては皆さまが想像するであろう通りになるのでそんなに言うことはない映画でしたね。だが予定調和なら予定調和でもいいのだが本作は前半部分の主人公が田舎にやってきて叔母の家でスローライフ的な生活をするというところがやたら丁寧に作られていて、ぶっちゃけ序盤は全然お話が進まないんですよね。そこは単純に退屈だったしややおねむな波が来てしまった。
でもそこをダメだと切り捨てられないところもあって、本作はその辺の細かい生活だったり家の中の不穏さだったりとかの描写が丁寧で、その何か恐ろしいことが起こりそうな予感というのが画面全体に漂っているからその雰囲気自体は凄くいいんですよ。具体的にここがこうとかいうような感じではなくて、空気感としか言いようがないようなイヤ~な感じが上手く表現されているのである。そこは素直によかったですね。
でもお話がロクに進まない感じはやはり退屈であった。そしてそのことにも関連するが本作はホラー映画でありながら全然人が死なないというのも不満点としてありましたね。いやまぁホラーだからといってぽんぽん人が死ななければいけないということはないし、本作はジャンル的にもスラッシャーとかスプラッターとかではないから殺人シーン自体が見せ場ではないというのは分かるのだが、それでももうちょいお話の山や谷を作るために犠牲者を描いても良かったんじゃないかなとは思った。コイツがヤバイ奴なんだろうな~というのは序盤のシーンが終わったあたりであらかた予想は付くのだが、そいつの化けの皮が剥がれるのが本当にラスト10分とかそれくらいなのでそこまで緊張感が持続しなくて弛緩してる感じが先に来ちゃうんですよね。そこはイマイチだったな。まぁ丁寧な描写を重ねてるといえばそうなのかもしれないが、もうちょい要所要所に引き締まるようなシーンは欲しかったですね。
ただその細かい描写は中々良くて叔母の家の中の不気味な感じはしつつもどこか魅力的な生活感とか、何よりも本作では大事であるお料理の描写とかも美味しそうでよかったので、もうちょい中盤に面白いことが起こればすごくいいものになったんじゃないかな~、という惜しい印象の作品でした。あと面白かったのは本作のヤバイ奴(大体察しが付くだろうが…)はちゃんとヤバイ奴として描かれているのだが、主人公の方も色々と躊躇なくやっちゃう奴でコイツもコイツでヤバイ奴だよな…というのは面白かったですね。最後それでいいのかよ! ってなる感じとか面白かった。バカ映画感はあんまなくてシリアスな作風だから余計にそこは際立っていたな。
まぁ直接的に人が死ぬシーンとかは無くていいから不気味で嫌な雰囲気のホラー映画を観たいという方にはうってつけの映画ではないでしょうか。あ、あと美味しいご飯を食べたい欲みたいなのは主人公の体型も相まって説得力を増して全編に感じたのでそこは割と真面目に良かったな。
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