生殖医療に貢献しつつ名も知られていない或る女性科学者の実話。
世の中の批判を浴びながら世界初体外受精を成功させたエドワーズ博士とステップトー医師と助手のジーン・パーデイの3人の苦心が描かれる。
人工中絶は長らく禁止、生殖に関する部分は神の領域、生命の誕生に人の手の施しは御法度・・・
正直、私自身も人工授精には負のイメージしかなかった。
医学研究評議会へ体外受精成功による援助の申し出をするシーンはその意味衝撃で、不妊と多産をごちゃ混ぜにしていた自分もエドワーズ博士に “shame on you!”と一喝された気持ちになった。
他人の辛さは同じ立場になるまで分からないもの、結婚してめでたく子供を授かると不妊に悩む人達の苦しみはなかなか理解出来ない。
だからこそジーンの主張は重みを持って印象に残った。
そのジーン役は「ラストナイト・イン・ソーホー」以来久々主演のトーマシン・マッケンジー、飄々としながら芯のある表情も良かった。
「いつかの君にもわかること」のパパ役が印象的だったジェームズ・ノートンが饒舌だが悩める博士を熱演。
産婦人科医役のビル・ナイは相変わらずクールなダンディズムがカッコいい。
とかく重苦しくなりそうな内容を軽妙なタッチにさせているのは、随所に流れる60年代〜70年代ポップスのお陰。
これがイギリスの風景にマッチしてオシャレ感が増している。
ニーナ・シモンの「Here come the sun」で始まり、締めのP.P.M.「500mile」は沁みる。
3人とも世を去った後にオールダム市と病院界隈でどんな動きがあったかは知らないが、2022年にジーンの名前も入れた新たな記念碑が建てられたとか。
エドワーズ博士のモノローグは最初の記念碑建立に際し市保健局へ宛てた手紙の一節らしい。
ジーンは博士と産婦人科医の隙間を埋めるように被験者に寄り添うだけでなく、研究成功へのバイタリティとなり博士を引っ張った立役者だったそうだ。
不妊治療の未来を見据えた3人の願い通り、IVFは今や不妊に悩む女性の一つの選択肢となり、救われた女性は “少数” ではない。
晴れやかに心に残る佳作。
良かった。
監督 ベン・テイラー
キャスト
トーマシン・マッケンジー
ジェームズ・ノートン
ビル・ナイ
ジョアンナ・スカンナン
タニヤ・ムーディ
リシュ・シャー
チャーリー・マーフィー
エラ・ブルッコレリ
ルイーザ・ハーランド
ジェミマ・ルーパー
アナスタシア・ヒル
ドージー・マックメーキン
ロバート・ウィルフォート
ピプ・トレンス