平野レミゼラブル

幕末太陽傳の平野レミゼラブルのネタバレレビュー・内容・結末

幕末太陽傳(1957年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

いやーこれは面白いですね…。
50年代の白黒時代劇で、時代劇入る前に冒頭から現代日本を映すんだけど、今となっちゃ現代の景色すら時代劇レベルに古いという。
そんな昔の映画だけど現代でも全く古びれなく面白い!!…というわけではない。むしろ古典的な面白みが滲み出てくる感じ。
古いんだけど面白い。むしろ古いからこそ、今感じられる味わい深さってのもあるかもしれない。

フランキー堺演じる主人公のイノさんこと佐平治がとにかく魅力的。
遊郭で勘定もしないで居残りを決めていくふてぶてしい人間ではあるんですけど、愛嬌がある人たらしにして器用万能。
遊郭のあらゆる雑用を素早く片付け、幕末の時分にどこで習ったんだかの西洋時計修復スキル、さらには仁先生じみた道具を用いて持病の薬の処方なんかもしてしまう。
これらの万能さでもって、時にこずるく騙して金をせしめ、時に遊女の問題を解決してモテモテに、時に高杉晋作ら幕末の志士とも渡り合って歴史を動かす大活躍っぷりです。
もはや俺ツエー系とでも言うべき万能主人公なんですけど、フランキー堺の軽妙なコメディアンっぷりもあいまって全然嫌みじゃない。
物語を進ませるにあたってこれ以上のキャラ造形はありません。

軽妙なトーンで佐平治の活躍劇が続いていくので、まるで落語か小噺を次々に聞いている感覚に陥るんですけど、実際いくつかの落語を組み合わせた構成になってるんですね、この映画。
爆笑まではいかないまでも、クスッとしたり、綺麗にオチて感心してしまうって展開がいくつもあり見ててとても心地良いです。
各噺の繋ぎ方も巧いので、多彩な登場人物のうち、次は誰の問題をどう解決していくのかなっていうワクワク感が常にありました。

惜しむらくはラストシーン。没案では佐平治が墓場はおろか、セットまで飛び出して、現代日本を駆け抜けていくというものだったらしいんですが、是非そっちを見たかった…!
現行版も、死ぬ死ぬ思われてた佐平治がそうは行くかとばかりに死の象徴から逃げ出していく痛快さがあっていいんですけど、やっぱりオチとしてちょっと弱く感じてしまいました。これまでの佐平治の八面六臂の活躍見てるとメタ空間すら突き抜けた没案の方がより「らしいな」って思います。
実際いろんなクリエイターがこの幻のラストシーン追い求めてDIYしちゃってますからね。庵野監督なんかはエヴァ最終回で本作の幻のラストを意識して再現したとか。エヴァ以外でやれ。
手に入らないからこそ美しいのかもしれないけど、そこは非常に惜しい。

超絶オススメ!!