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狼の血族のhorahukiのレビュー・感想・評価

狼の血族(1984年製作の映画)
4.0
明日公開『グレタ』の予習で見ました。

検閲が厳しかった当時のイギリス映画界で、かなりのグロテスクさがありながらも芸術性の高さで検閲を見事に突破した文芸ホラー。ジャケ画像にもある狼への変身シーンでの派手な特殊メイクが注目される本作ですが、ニールジョーダン監督によると「アレなしのが良かったんじゃね?」って指摘する評論家もいたそう。

人から狼へと変身するリアリティを重視した『狼男アメリカン』とは異なり、本作では赤ずきんモチーフの童話としての寓話性を意識しており、「内面から溢れ出る男性性」を表現した変身シーンとなっている。それと同時に紳士な外枠に隠された内面のグロテスクさをも感じさせるもので、少女主観で「男性」なり「性」なりを捉えた変容の物語としてのイメージも重なるため、私的にはあった方が良いんじゃね?って思った。血みどろの筋肉だけになるとことか、単純にテンション上がったし👍

『狼男アメリカン』だけでなく『フライトナイト』や『ニアダーク』もそうでしたが、アメリカ映画ではクラシックモンスターを80年代という現代に復活させる意図をもった作品が主流な時代。だからこそ、ハマーやコーマンのような50〜60年代の古典的ゴシックホラーの空気感を受け継ぎ、恐らくセットでの撮影だと思われる空間演出を行う本作は非常に魅力的に映る。これもイギリス映画とアメリカ映画の違いなのでしょうね。

内容的には「男は狼だから道を外さないようにしなきゃダメよ!」的な道徳の時間に最適わかりやすいメッセージを込めた性教育映画なわけですが、少女の見る夢から更に夢の中で語られるお話の世界へと派生し、現実と夢、そして夢の中の夢をシームレスに行ったり来たりするという複雑な構造となっている。その中に、人形たちや熊のぬいぐるみに代表されるような「少女」をイメージするアイテムだったり、口紅や夢の中で語られる御伽噺、卵から生まれる赤ちゃん、女性の絵画や窓を突き破ってくる狼等、性や性行為、大人の女性への変容を連想させるモチーフが至る所に散りばめられ、少女の内面的変容が作品を通して語られていることがわかる。

白と赤のイメージも多く使われており、白を染めていく赤なんてのも非常に象徴的。姉と妹の関係性や姉の顛末も意味深で「普通の狼だから…」といったセリフも考え出すと面白い。そう思うと人狼映画の傑作『ジンジャースナップス』は本作から影響を受けてるんだなってのがわかるし、イザヤの書からの引用を見ても男性でも女性でも関係なく表裏一体な多面性をもった存在なのだということが描かれているのがわかる。そこから膨らませたのが『ジンジャースナップス』なんだろうね。

本当は『グレタ』までにニールジョーダン監督作全部見ときたかったんだけど、『イット』の予習に時間使いすぎましたわ…。インタビューで語ってた参考にした映画も円盤買って用意してたんだけど手をつけれず…😱今週は、先週見れなかった『CLIMAX』も行かないといけないし、シッチェスも今週末からだし、予習は全く間に合わなかった…。
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