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麻薬密売人 プッシャーのLudovicoMedのネタバレレビュー・内容・結末

麻薬密売人 プッシャー(1997年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

ニコラスウィンディングレフンデビュー作、衝撃の風格。

レフン監督ほどフィルモグラフィが異色な作家は珍しいだろう。『ブロンソン』では時計じかけのオレンジ風に、『ヴァルハラライジング』はタルコフスキー調の画と難解さで『ネオンデーモン』はポストムーンライトを思わせる色彩耽美なタッチを魅せるなど、観るたんびに別の方角を指すアヴァンギャルドなアートを追求しているのだが、

この監督、デビュー作からどうかしてる。

自主映画が監督スタート地点という業界あるあるをガン無視したかのように、麻薬密売人の視点を洗練されたストーリーテリングな、なんならプログラムピクチャーチックに盛り上げたのだ。
レフンの様なアート作家からは、考えられない『面白い』と思わせるツボを刺激する娯楽性が紡ぎ出され、むしろ次作の『ブリーダー』や『フィアーX』の方がかなりデビュー映画風であった。

ただプッシャーに関してはこれだけではない。 
なななんと、本作はto be continuedと言わんばかりの唐突すぎるブツ切りで暗転し、「続きはまた来週」なタイミングの終わり方には観た人全員びっくりすると思う。
まさかレフン、デビュー作でトリロジーに挑戦したのか?
その答えは、もちろん思惑通りレフンはのちに続編を創り上げました。

しかしながら、ただの麻薬売人モノではもちろん無く、麻薬関連の映画はどの視点から覗き見るかが肝となり、『ボーダーライン』や『トラフィック』では"視点の転換"にエポックメーキングな面白さを紡ぎ出しました。本作では、ストリートを徘徊する麻薬密売人フランクの日常が描かれる。レフンはここで、内部調査局がよくやる隠しカメラの様な視点を用いて、荒々しい日常を覗き見ドキュメンタリー調に繰り広げる。
すると、この売人がおもてを歩けば、右から、左から、「ヤクをくれ」とせびられ、ガッポリ稼げる担保を噛みしめながらその足で、怖ーい麻薬王から借金してヤクを仕入れる。

相変わらずな危ない橋を渡りたがる売人あるあるが、本作を通すと静かに喉元を絞められていく様な危機感がジワる一方、相棒と和気あいあいに下品なセックス駄話をし、フランクにとってはごく日常茶飯事な状況であることが分かる。

しかしながらどこで、ヘマをやらかすかは予測不可能。彼にはトンデモないツケを払わされる。

麻薬王に合わせる顔がない中、猶予延長を相談しにいくと「よーフランク、どうしたつれない顔して?、チョイと食事でもどうだ?」と返されフランクは更に顔面蒼白になる。
ここから彼の怒涛の逃亡生活が展開するが、何故か恋人との私生活を無理に両立しようともがき、借金地獄の綱渡りを全速力で駆け抜けるのだ。

フランクを追う、揺れるカメラに終始釘付けでした。
レオスカラックス、ドランとはまた違った意味で『恐るべき子供たち』型天才風格ビンビンな、衝撃デビュー作でした。
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