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今は昔、栄養映画館の旅

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『今は昔、栄養映画館の旅』に投稿された感想・評価

GyG
5.0
本作は、朗読劇『今は昔、栄養映画館』を各地のミニシアターで上演する、その旅回りを撮ったドキュメンタリーであり、巡業地での人との交流を描いたロードムービーです。
その中にでてきた古い映画館は、昔そこで映画を観たような、それはスエズ動乱で戦車が進軍していくニュース映画だったような、そんな記憶が蘇ってきました。
周りの観客も似たような年配だったから、どこかで同じような感慨を抱いた人もいるのではと、勝手に想像しています。



長文になりそうなので、断片的に写りこむ朗読劇に的を絞って書くことにします。

これは、ドタバタ喜劇です。しかし、底流にあるものは長年舞台や映画の現場で生きてきた喜劇人たちの、ほとんど祈りに近い職業倫理だったように思います。
表面では、延々と「針に糸が通らない」「ズボンを脱ぐ」「席取りが増殖する」という不条理ギャグが続いています。
しかしその混乱の中心には、「芝居を成立させたい」という執念が満ちている。

柄本明さん演じる男1は、神経症的なほどに細部にこだわる。
ボタンひとつ、ワンカットひとつ、席順ひとつが気になって眠れない。
それは小心ではなく、「観客の前に立つ」という行為への畏れであろう。
喜劇人にとって、笑いは“雑に扱っていいもの”ではない。
むしろ逆で、笑いほど繊細なものはない。ほんのわずかな間、ほんの一拍のズレで、舞台全体が崩壊する。
だから彼らは、他人から見れば馬鹿馬鹿しいほど細部に執着する。
「袖のボタンのひとつやふたつ」と笑いながらも、その実、彼らは“作品を完成させる責任”の重みに押し潰されかけている。

「ワンカット撮り忘れた」という告白がある。
しかし、それは単なる失念ではない。
喜劇人が抱える、「自分の仕事は本当に成立していたのか」という終わりのない不安そのものからきている。
だから男1は眠れない。
完成披露の直前になっても、「本当にこれでよかったのか」が消えさらない。

さらに西本竜樹さん演じる、男2も重要な存在だ。
男1が“芸術への強迫観念”だとすれば、男2は“現場の人生感覚”そのものだ。
男2はいつも軽い。脱線する。くだらないことを言う。話を壊す。
しかし実際には、この男がいなければ現場は崩壊するだろう。

映画や芝居というものは、天才ひとりでは成立しない。
現場には、雑談する者、茶化す者、空気を和らげる者、泥をかぶる者が必要になる。
つまり男2は、「名もなきスタッフたち」の総称なのである。
助監督、共同脚本、プロデューサー補佐、村人A、ウェイターC、通行人B。
この羅列はギャグであると同時に、映画づくりの本質でもある。
映画とは、無数の「その他大勢」によって支えられる総合芸術だからだ。
それゆえ、男2は「記念写真に写りたい」と切に願う。
それは、スタッフの仕事は消えて無くなる。観客は監督や俳優しか覚えない。だが、「写真」は記録として確実に残る。
つまり彼らは、“歴史に痕跡を残したい”、自分たちも確かにここにいた、と。

この台本で何度も繰り返される「あと五分」というセリフも、単なる時間ギャグではない。
それは喜劇人の人生そのものではないか。
あと五分。あと少し。もう終わる。でもまだ始まっていない。果てなくそれを繰り返していく。

芸人は、生涯ずっと「開演直前」を生きている。
完成したと思った瞬間に、また次の不安が来る。
喝采の直後に、「本当にあれでよかったのか」が始まる。
だから彼らは、楽屋で永遠に準備し続ける。
しかもこの台本が凄いのは、その極限状態を“悲劇”ではなく“笑い”として描いている点だ。
ズボンを脱ぐ話。席取り。電話地獄。「あと五分」。
全部バカバカしい。
だが、そのバカバカしさの奥に、「人生を賭けて笑わせてきた人間の哀しさ」が滲む。

喜劇人は、崩壊寸前でも笑いに変える。混乱も屈辱も失敗も、全部ネタにする。
だから最後、二人はほとんど裸同然になりながら、それでも客を迎えに行こうとする。
これは芸人の矜持なのだ。
どれほど疲れていても、壊れていても、開演時間が来たら舞台へ出る。

そしてラスト、暗転後に再び照明がつく。二人は完璧な正装で、観客に頭を下げている。
つまり我々が見ていた地獄のような混乱は、観客には見えない“舞台裏”だったのだ。
芸人とは、その修羅場を客席には見せない存在なのであろう。
そして、ボロボロになりながら、最後には笑顔で「サンキュー」という。

このラストには、長い芸人人生を生き抜いた者だけが持つ、ある種の崇高さがある。
笑いとは、単なる娯楽ではなく、崩れそうな人生をギリギリで支える技術なのだ、と。

※男1から素になった柄本さんが、亡くなった志村けんさんについて語るシーンがあります。その語り口から、柄本さんは志村さんを単なる同僚ではなく、尊敬・私淑している。そう思えてきました。
あの朗読劇は、芸に関わる人たちすべてに捧げた作品なのでしょう。
舞台挨拶あり。
(柄本明さん・西本竜樹さん・吉橋航也さん・鹿野祥平さん・柴田鷹雄さん・松沢真祐美さん・鈴木寛奈さん・竹田正明監督 登壇)

朗読劇あり。

北は新潟から南は高知まで、
各地のミニシアター23館27公演の朗読劇を1か月間追ったロードムービー。

全国には趣のある映画館が、
こんなに残っていると思うと、
なんか嬉しい気になる。

行ったことがある映画館が、
2か所あった。

1か月間のハードスケジュール、
お疲れ様でしたと思う。

映画観て、
朗読劇を聴き、
柄本明さんからサインももらえて、
なんとも贅沢な時間を過ごせた。

2026年140作目(劇場138作目)
劇団東京乾電池の柄本明さんと西本竜樹さんの朗読劇『今は昔、栄養映画館』の東は茨城から西は広島までのミニシアターを巡った旅公園を記録したロードムービー🚐各地のミニシアタースタッフやファンとの交流に加えて朗読劇の様子も断片的に織り込まれた映像からは長い年月を共にしている劇団スタッフとの空気感も伝わってきて、どこか一箇所だけでいいからワタシも参加したかったなぁ〜ってな気持ちになりました🤩

時間が出来たら…ワタシも知らない街の映画館を訪れる旅へ出かけたい気分になりました😌

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