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アリスのbackpackerのレビュー・感想・評価

アリス(1988年製作の映画)
3.0
グロとロリと悪趣味と……。

チェコのシュルレアリストにしてアニメ作家・映画監督のヤン・シュヴァンクマイエルの初長編作品。世界的に有名な童話『不思議の国のアリス』を大きく脚色し、珍妙極まる不気味な世界にリビルドした彼の手腕に、観客は鳥肌必至です。


作品時間86分ながら、ストップモーションアニメという作品の性質上、制作には大変な時間と労力がかかるため、制作にはなんと3年かかったとか。

この作品の(と言うよりヤン・シュヴァンクマイエルの)特徴として、可愛らしいモチーフの中に、生々しくグロい悪趣味節をぶち込んでくることが挙げられます。
血走った眼球剥き出しのウサギは、避けた腹から臓物代わりのおが屑を溢れさせます。
釘の生えたパン、画鋲入りのジャム。
不味そうなクッキーと瓶詰めのインクが身体を大きく&小さくする。
靴下製の巨大芋虫、剥製の頭に骨格標本の体(又はその逆)、ボロボロの人形。
これらはいずれも、作中で実際に登場する狂気のアニメーションの一部抜粋例です。
これらがしつこいくらいに延々と同じことを繰り返したり、ひたすら不気味で気持ち悪い生々しさを露悪的に見せつけてきたりと、全く辟易とさせられる悪趣味ぶり。
そこに加えられるのが、ロリコンの人は大歓喜かもしれない主人公アリスちゃん。
金髪にブルーグレーの瞳といういかにも西洋人形風な容貌、ロリータなピンクのワンピースと白い靴下で着飾り、パンツ丸出しで転げ回るアリス。唯一の人間のキャストであり、かつ全編彼女のモノローグであること。そこに摩訶不思議な作品世界が相まって、地獄に咲く一輪の花と言わんばかりのキュート&エロティシズムを放ちます。
悪趣味によりがちな所を調整するかのようなバランス感覚の結果が、このアリスちゃんだとしたら、監督の倒錯もなかなかのもんだな……と思っていましたが、どうやら監督の妻にして共同作業者のエヴァ・シュヴァンクマイエロヴァーの影響があるようで、彼女が亡くなった後は悪趣味全開のご様子。やっぱりか。


40分あたりでキューブリックの『シャイニング』オマージュが挟まれたのは、思わず笑ってしまいましたが、それ以外はどーにもシニカルな苦笑となることが多く、同じことがひたすら連続する展開や、全く進展しない内容の虚無感にも参ってしまいました。どーにも、私にはあまり合っていない。
とは言え、コマ撮りアニメーションの恐ろしい程の滑らかさや、その精緻極まる作りには驚愕しきりでしたので、向き不向きはあれど一度は見ておいた方がいい、というのが結論です。
カルト臭プンプンですので、ハマる人はどハマり間違いなし!グロエロ悪趣味な『アリス』の中身、是非ご確認ください!
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