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恐怖の牝獣のhorahukiのレビュー・感想・評価

恐怖の牝獣(1964年製作の映画)
3.8
私は狂ってない!!

夢の中でママに「あんたは狂ってんのよ!」と言われ続けたせいで、マジで自分は狂ってるんかも…となっちゃった主人公が夢と現実の境を見失っていく、ハマーフィルム産の心霊&サイコホラー。

今日は「幽霊の日」だということで心霊系にしようかな…と思いつつコレ用意してたんですけど、そんなに心霊系でもなかったわ…。

当時、イギリスホラー界で隆盛を誇ったハマーとアミカスの両方で有名作を残し、アカデミー撮影賞も受賞してるフレディフランシス監督作。脚本はハマーのベテラン、ジミーサングスターという安心安定な布陣。これで面白くないわけがないですわね。

寄宿制の学校で学ぶ主人公ジャネットは、毎晩悪夢にうなされ大声あげるもんだから、良くなるまで家に帰ることになるんだけど、良くなるどころかどんどん悪化してっちゃう…。それも幼い頃にママが狂ってパパを殺しちゃったトラウマによるところが大きいんだけど、今は学校の先生も使用人のジジババもめちゃ心配してくれてるし、後見人の弁護士ヘンリーもめちゃ優しいし、ヘンリーが手配した看護師も世話してくれるのに全く良くなる気配がない。次第にジャネットは現実と夢の境がなくなっていく…という感じで物語が進んでいきます。

「いつ夢が終わって現実がスタートしたの?」というジャネットのセリフが表すように、観客側も夢と現実の境目を全く見出せない一連のシークエンスが秀逸。現実から夢へと場面と人物の転換がなされた後、夢の中で歩みを進める道のりの先で、場面転換前の現実を象徴する人物と「夢」が鉢合わせるという衝撃。

ジャネットの悪夢内容をそれまでに観客に印象付けを徹底したからこそ成し得る演出なわけですが、「悪夢に悩まされる主人公」という単純明解さをぶち壊し、何がどうなってんのかわからない地に足のつかない浮遊感が嫌なムードを作り出してて良い感じ。

過去の呪縛や精神的幼さを捨てきれない彼女の心中を表現するかのように、小汚い人形をずっと側に置くジャネットは、そういった過去から脱し未来を渇望するかのように後見人のヘンリーに惹かれている。過去と未来の中でもがくジャネットを恐怖演出をもって描く作品なのかと思いきや…な展開も良かった。

『ラ・ヨローナ』に影響与えたんじゃないかと思えるような、影に誘われ角を曲がり奥へ奥へと進んでいく道のりや、闇に隠れた表情に当てる光、只でさえ黒の多いモノクロ映像の中に意図的に作り出された漆黒の異様さ、空間の境界を越え漏れ出す光等々、モノクロを活かした演出が冴え渡ってるし、カットを割らずに照明のみで昼から夜への変化を表現するシーンは時間的な変化だけでなく、現実から夢へと入り込むような感覚もあって面白かった。

心の中にある罪悪感が、至って日常的な生活音をまるで自分を責め立てるかのような音に心の中で変換させてしまう人の脆さを無音との対比や人を覗き見る映像との切り返しと間で表現するクライマックスの凄まじさ。さすがフランシス監督!

心霊系ホラーではなかったんだけど、面白かったので見て良かったです。ネタバレ厳禁なんで、あんまり書けないのが残念…。
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