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白い肌に狂う鞭のhorahukiのレビュー・感想・評価

白い肌に狂う鞭(1963年製作の映画)
4.5
鞭に打たれる快楽…。

「遺産ちょーだい!」とか言って、絶縁したクソ息子(クリストファーリー)が実家に帰ってきた…んだけど、すぐ死んじゃった。死んでもなお、弟の奥さんを寝取ろうとしたり家族を掻き乱しまくるリーの悪行を描いたゴシックホラー。

『処刑男爵』見てバーヴァ熱が再燃したので、手持ちにあるこちらを!バーヴァの代表作のひとつと数えられるだけあって流石の面白さでした。ちなみに本作はジョンMオールド名義です。

海を見下ろす絶壁にたつ古城という舞台とゴシックムード溢れる荘厳な古城の内装が、いつの時代のどこなのか全く説明されないことと合わさり、現実から隔離されたような雰囲気を醸し出してるのが良い感じでした。

一家の一員でありながら、帰宅することによって場の空気が張り詰めたような緊張感で満たされるのはホームインベージョンスリラーのよう。「弟の結婚を祝うために戻った」という表面上の祝福を口にするも、女性関係を基軸に内側から家族を掻き乱していく。

そんな掻き乱す側だったリーが怯える側へと転落する恐怖演出が凄く良かった。冒頭に書いた通りリーはサッサと死んじゃうわけですが、外からの「何か」の侵入を風と雷鳴で演出し、声の聞こえてくる方向をズラすことでそれを決定づけるというスマートさ。途中で挟み込まれるゴシックムード溢れる広大な廊下の映像も良かったんだけど、それだけに留まらずに嫌なムードを作り上げる反復の材料として、これ以降の恐怖演出へと空気感を引き継がせるのがうまかった。

そんな感じで本作は恐怖演出を跨いだ反復が何度も用いられていて、ひとつのシークエンスの中で出てきた要素が次へ次へと伝播し、その都度引き継ぐムードに新たに構築するムードが並存し、全く違う印象を与えるのが新鮮に感じました。

そして恐怖演出がキャラクターの心に重荷としての恐怖を引き摺らせ、別の要素がトリガーとなって再び恐怖演出へと突入するという数珠繋ぎのようなやり口も面白かったし、しっかりと長回しで空間を観客に把握させた上でのオチへと持っていく手堅さ。ここでもしっかりと反復が使われている。

自分の部屋へと近づいてくる足音へと疑惑と恐れが高まっていく毎にキャラクターの顔へと寄っていくカメラと、確信へと変わった瞬間に一気に引くカメラとか、月明かりをバックに浮かび上がる鞭を持った黒い影とか凄く良かったし、闇と光の中を交互に潜り抜ける道のりとか、暖色から寒色へと変化していく照明とかめちゃくちゃカッコイイ。

主人公はリーの元カノのラベンカなのですが、本当にリーが蘇り家族を襲っているのか、それともリーの鞭による暴力を求める歪んだ感情が見せる幻なのか。後半にいくにつれ、虚実が入り乱れていき、言葉では否定しつつも心の奥底では暴力による快楽の虜になってしまっている倒錯し屈折したラベンカの心情がその真相を最後まで煙にまく。そしてその真相が気味の悪さをより一層際立たせる。

そんな感じでめちゃくちゃ面白い傑作でした。脚本家のガスタルディはバーヴァのやり方に不満を持っていたようですが、バーヴァの演出が冴え渡ったまごう事なき傑作だと思います。ちなみにVHSタグつけてますが、私がVHSで見たってだけで国内版のDVDありますよ。というかさっさとBlu-ray出して!
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