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カスパー・ハウザーの謎のRのレビュー・感想・評価

カスパー・ハウザーの謎(1974年製作の映画)
4.9
19世紀前半ドイツ。生まれたときから狭い小屋のなかに鎖で繋がれ、監禁状態で誰にも触れずに、おっさんくらいの年齢まで食料を与えられ生かし続けられた男が、ある日、彼を監禁していた謎の人物によって小さな町に連れて出され、放置される。謎の人物からカスパーハウザーという名を与えられていた彼は、その町の人々を驚かせ、野生児として珍しがられて、世話されるようになる。少しずつ言葉を学ぶことで、理解や意識が生まれ、人間としての生活に一気に適応することを強いられるカスパー。前半は、そんな彼が初めて食卓について飯を食ったり、子供たちから言葉を習ったり、様々な初体験を重ねていく様子が大変おもしろく、町の人たちと同じように、珍奇なモノを観察してる視点でカスパーの変化を追っていくのであるが、後半、驚くべき視点の逆転が、気づかぬ間に起こってて、ハッ!とする瞬間がやって来る。待て、待て、ちょっと待て! と。それはいったい何か。端的に言ってしまえば、いちばんおかしくて謎の存在であるはずのカスパーハウザーが、実はいちばんまともでいちばん人間らしい存在じゃないか! ということであり、一方、普通の人間たちは明らかに意味不明で、彼らが当たり前だと思ってることが、あまりにもおかし過ぎる! という事実、それが気付けばエグいくらいまざまざと暴露されているのである! いったい人間がどういう風に不条理なのかをここで挙げていくのもアリやけど、ネタバレになってしまうのでやめておこう。びっくりしてしまいますよ。昔の話とはいえ、現代の人間と、大した感覚の差がないしね。男も女も関係なく、みんなヒドイとしか言いようがない。けど、やっぱ男は、物理的にも精神的にも暴力性が高い分、ヒドさが顕著。見てて嫌んなってくる。そんな中、唯一の救いとなるのは、目の前にいるひとりの人間を何とか幸せにしてあげたい、という思いやりの心と、相手に何も望まずただかわいがってあげたい、という純粋な愛情なんだなぁ。そんなこんなで、タイトルに騙されてカスパーハウザーの謎が解けていく話だと期待することなかれ。実際は、一般人と一般社会の謎、であり、その謎の答えはまったく出ません笑 こいつら何のためにこんなことやってんの?って疑問が尽きない。カスパーハウザーは自分の感覚にどこまでも素直であり、そうであるがゆえに、実存的・社会的苦悩を背負わざるを得ないのである。いやー、実に面白かった。自然が目にしみるような美しい映像や、幻想的な夢のシーンなど、ビジュアル的にも見ごたえがあるし、出てくるキャラの濃さも面白い。特に、常に報告書をまとめてる役所仕事一途なちっさいオッさんと、カスパーハウザーを社交デビューさせるキモいおかまハゲのインパクトはスゴい。ギリシャ旅行の話のどーでもよさとかマジわろてまう。皮肉に満ちた最後のシーンは、あー人間てこういうクソなやり方でウソの安心感を得ながら生きてるよなー、現実いまもぜんぜん変わらないよなー、と、とても象徴的な終わり方。すごくシャープな視点を持った衝撃的映画! 今回で5回目やったけど、何度見てもおもしろい! あーーーBlu-rayで見てみたいーーー
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