ヨーク

神の道化師、フランチェスコのヨークのレビュー・感想・評価

3.9
2024年最初の映画がこの『神の道化師、フランチェスコ』で初映画というだけでなく元旦の鑑賞でもあったのだが、観る前は、ちょっとお正月映画にしては渋すぎるかな~、とか思ってたんだけど実際に観てみると意外とコミカルで体を張った笑えるシーンとかもあったので存外に楽しい映画でしたね。なんというかもっとストレートに客に説教してくるタイプの映画かと思っていた。
とはいえイタリア・ネオリアリズムの巨匠でもあるロッセリーニの作で大事もアッシジのフランチェスコを描くというのだから平易で親しみのある語り口ではあってもそこには啓蒙的な意図は大いにあったであろう。だが最初に書いたように本作は大上段から偉そうにご高説を垂れるというような作りではなくてその真逆な印象を受けるものであったのだ。
映画の内容としてはあらすじとかは説明しずらい映画で、というのも本作は全10個のエピソードで構成されている短編集というか説話集とでも言うべきものなんですよね。それらはタイトルにあるようにアッシジのフランチェスコと彼の弟子たちによる布教の様子を描いたもので訓話めいた感じではあるのだが山あり谷ありなストーリーが展開されるわけではない。例えば最初のエピソードはフランチェスコたちが当時のローマ教皇から布教の許可を得た帰り道、突然の通り雨に見舞われてずぶ濡れになりながら家に帰るんですよ。そして帰宅したら自分たちの小屋にはなんと農民とロバがいて彼らはあろうことかフランチェスコたちを追い出そうとするのだ。無断で雨宿りさせてもらってたくせになんと厚かましい! と誰もが思うだろうがそこは聖人フランチェスコ「彼らの役に立つことができたのだから歓びを感じるべきです」とか言っちゃうんですね。う~~ん、聖人ポインツ100点! と言ってしまいたくなる。
まぁそういう具合で清貧と神の御国を説いたフランチェスコとその弟子たちの姿が描かれるのである。ちなみに本作は85分と短めのランタイムで、そこに10個のエピソードがあるのだから1つのエピソードは平均8~9分である。無論、多少の長短はあるがこの一本ずつのエピソードの尺というのが新年早々にボケーっとスクリーンを眺めるのにはちょうどよかったんですよね。
本作はそのテンポの良い尺の中でフランチェスコにまつわる逸話を紹介していくわけだが、これが中々にコント染みていて面白い。ロッセリーニが意図していたかどうかは分からないが、敬虔さとか信心深さとか、その神を疑わない姿勢というのは実に誠実な信仰そのものなんだがそれはちょっと引いた目で見るとギャグにもなってしまうよねというところはあったと思う。ロッセリーニに関してはあまり詳しくないので何とも言えないが、その辺の部分は共同で脚本を執筆したというフェリーニの作風が色濃く出ていたのかもしれない。周囲の人から冷たい待遇を受けてもそこにある大らかで素朴な信仰を保ち続ける姿を描き、そこにギリギリで皮肉にはならない程度のユーモアも添えられている。これは実に良い塩梅で道徳を啓蒙できる作品だよなぁと思いましたね。さらに宗教にハマってる人を外部から見たときの滑稽さという視点もあるのだから非の打ちどころがない啓蒙映画といえよう。
ただまぁ何というかな、何度も書いてるように10個のエピソードが山も谷もなく垂れ流されるだけなので映画としてのドラマ性があるかというとそこは正直厳しいというか、ぶっちゃけ中盤は結構寝ながら観ていたよ。そのドラマ性がないということとも関係するところだが、主役と言ってもいいメインのフランチェスコがもう最初から聖人として完成された存在として描かれるので、例えば神の教えに疑問を持って苦悩したりそこを乗り越えて成長するというようなストーリーものの映画では定番な「成長する主人公」という盛り上がりというのは一切ないのである。
ま、でもそこを差し引いても十分面白い映画でしたけどね。ジネプロの大縄跳びとか爆笑しちゃったよ。完全に出来上がっているフランチェスコを除いてだが、各人物の表情とかはかなり人間臭くてそれも味わい深くていい。キリスト教の聖人を描いた映画というと堅苦しいものを想像しそうだけど、本作はかなり緩く観ることができるのでその辺おすすめポイントですね。ロジックとしての宗教や神の教えとかじゃなくて、生活の中にあるそれを感じる映画なんだよな。
唯一フランチェスコだけが聖域として人間味をあまり感じない(俺が寝てる間にそういうシーンがあったかもだが)というのはあるが、そこはまぁ根が啓蒙映画ということがあれば仕方ないというかむしろ当然でもあろう。勝手に小難しいイメージを抱いていたがこれが中々いい感じに緩いお正月映画でしたね。面白かったです。
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