「手をあげろ！」というセリフをはじめて発したとされる駅馬車強盗、ビル・マイナーの晩年を描いた作品。
彼を演じたリチャード・ファーンズワースの存在感が素晴らしく、紳士とは何たるかというのがよく分かった。私もこんなおじいさんになりたい。

劇中の映画をみるシーンなど演出や編集もさすがであって、緩急の作り方がとても上手い。それが単なる銃でドンパチする西部劇でも、ただのヒューマンドラマでもない、唯一無二の傑作にしているのだと思う。

マイナーのように地味で平凡な人生では飽き足らない「男」はいる。それを時代遅れと言ったとしても、擁護はできないのかもしれない。でも急進的なフェミニストの写真家、フリンとは親密になれたわけで確たる信念がかけがえのない関係を結ぶことはある。だから人の性ならどうしようもないとも思えてしまう。

11月には新文芸坐で上映もある本作。音楽を担当したザ・チーフタンズの音色も素晴らしく、予告編もとても胸躍るものであるから、ぜひ劇場で音楽を浴びたい作品だ。

1983年”THE GREY FOX”カナダ。老盗賊の西部劇。主演リチャード・ファンワース渋い。男のロマン。映像美しい。いつまでたっても自分のこだわりを追い求めるのだ。

リチャードファーンズワースの佇まいが良すぎる。ワイルドじゃなくてジェントルなアウトローの静かな芯の太さがビシビシと熱く伝わってくる。ジャッキーバロウズ演じる写真家はフェミニストの走りか、ふたりの出会いのシーンも素晴らしくて、白黒の縞々の囚人服でボート漕ぎ出す場面とともにその後が語られるエンドクレジットではグッときた。嘘でもいい。列車を避けて駆ける馬たちのシーンではハラハラさせられ、ブラスバンドと旗持った住人たちに壮行される護送シーンもよかった。いやーリチャードファーンズワース最高。