すがり

ホーホケキョ となりの山田くんのすがりのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

かつてちらとみただけで断片的な記憶しか持っていなかった。
以前はぽんぽこばかりみてた気がする。
ぽんぽこはぽんぽこで今と昔じゃみえ方が違う気もするけどね。

この山田くんも多分その類い。
昔の細切れになっていた記憶が今回みたことで塊になる。その破壊力たるや。
まず単純にアニメーションがすごい。
アニメみてるんだもん、アニメーションがすごいだけで充分に満足感はある。
どうしてあんなに抽象的なようであれだけの立体感、存在感が生まれてくるのか。

山田くんの世界観というか、展開される物語、一切合切日常なわけだけど、これを現実感のある絵でやられてたら、それはそれで笑えるだろうけどこういう気持ちにはなれないだろうと思う。
まさにするべき人がアニメ化したと信じられる。

でも。
でも一箇所。ちょっとリアル寄りの絵になるシーンがある。

月光仮面のくだり。
夜、いわゆる暴走族、と言っても三人だけど、これを注意しに行こうとするお父さんの背が高い。
絵が変わる、頭身が上がっている。

これがアニメ独自のものか原作からか、判断はつかないけれど、言いたいことは分かる。
視聴者に等身大を求めてる。
この時、結局お父さんは族を撃退できない。
最終的に撃退せしめたのはお婆ちゃんだった。

月光仮面に憧れ、月光仮面になりきった回想が差し挟まる。
もちろんお父さんの脳内の話だ。

なんだこの切なさ。

たとえ状況が違っても似たような経験はおおよその人にはあるんじゃかなかろうかと思う。
自分が憧れたヒーローを、まだ胸に持っているだろうか。
持っていたとして、発揮されているだろうか。
たまには外で遊ばせないと切ないだけになる。
このお父さんが教えてくれている。
月光仮面は現実にはいない。
存在はする。
胸の奥の奥、想像の中、それらは現実ではない。でも、何でも実現する。
そこに月光仮面はいる。

なんだこの切なさ。

いっそ少しも存在しなければまだいくらか心は平穏だったかもしれないのに。
その平穏に先は無いんだけどね。ただ安らか。

今作は基本的に家族って単位で色々と共感を伴って笑わせてくれるのだけど、それでこちらの感情を膨らませておいてこういうカミソリみたいな心理攻撃仕掛けてくるのだもの、もう私の感情は薄皮一枚でパンパンですよ。

それがね、構成が上手すぎる。
ラストでしっかり決壊させてくる。
決壊するしかなかった。
怒涛の感情、大洪水。
泣いてんだか、笑ってんだか分からない。
涙は出てるし、笑い声も笑顔も出てるから両方か。泣いて笑って、笑いながら泣いてる。

家族でね、プリクラ撮るんです。かしゃーって。
それで、よしご飯食べに行くぞって。
ご飯食べるぞって。
すると口々に全員、食べたい物を言うんですけど、誰も全く違うんですね。
そしたらお父さんが、うるさい俺が決める、って。

この一連の流れで私の感情に天変地異。

そうだよな、良いよな、食べたいものがバラバラでも、結局家族だもんな。
お父さんだって決めさせてもらえないんじゃないですかあの流れだと。
でも決めるって口に出せるし、それで他の家族に何を思われるでもない。お互いみんな分かってるからね、口に出してるだけだって。
なんて素敵な信頼関係。
それで最後は上手いこと全員で落ち着く。
家族って、家族ってこれでしょ。
山田くんみてて本当にそう思う。

常に一緒にいなくたって、常に一緒のことをしていなくたって、家族じゃなくなるわけじゃない。
本来そこに不安は必要ない。

攻殻機動隊って作品があって。
その作品群の内、多分SACだったと思うんですけど、すごく好きなセリフがあって。
荒巻っていう人がいまして、その人が言うんです。
「我々にはチームプレイなどという都合の良い言い訳は存在しない、あるとすればスタンドプレイから生じるチームワークだけだ」って。
これが本当に最高で。
だって個別に動いてるのに味方の存在を強烈かつ鮮明に感じられるんですよ。
特別相手を想わなくても、特別何かを期待しなくても、個別の行いがお互いに影響しあって良い結果を生む。
一番美しい人間関係の形だと思います。
そして本来それを最も達成しうる可能性があるのが家族ってやつなんじゃあないかと思ってます。

だからこそ山田くん、この映画。
ラストのご飯のくだりで、その一番美しいものを目にしたと感じて、私はもう駄目でした。
すがり

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