菊池寛を演じる西田敏行が主演とした2008年の114分の作品。人物として懐が深く大きかった菊池寛を西田は好演し、シリアスで暗くなりがちな内容にも関わらず、西田の存在自体が映画全体を明るくしている。DVDの特典映像で西田は、DVDを購入した人に感謝を述べるとともに、語りかけるように映画に込められたメッセージを温かく述べる。
特典映像で監督の高橋伴明は、本作は監督はどうでもよく役者に尽きると語っているが、馬海松(まかいしょう、1905年 - 1966年)を演じた西島秀俊も影のある朝鮮出身の『文藝春秋』の知的な編集者を演じ、二場面しかないがアクションシーンではスピードのある蹴りも魅せる。また、西島の役を通して、当時の日本での朝鮮人差別や、朝鮮半島の日本による植民地支配、朝鮮の特権階級である両班および、これと夏目漱石との類似性(このことによる菊池寛の漱石の否定)など複数の興味深い話題が提供される。
菊池寛の秘書には実在人物のモデルがあり、作家の佐藤碧子(みどりこ、1912年 - 2008年、小磯なつ子が筆名)。本作で池脇千鶴が演じる細川葉子は複数の男性から想いを寄せられる役所。映画が進行していく中で、池脇は人間的な成長と文学者としての片鱗はみせるものの、冒頭よりは外見のかわいらしい幼い少女という存在であり、成熟した大人の男性を惹きつける伏線が、もう少しないとストーリーに説得性が欠けることになる。なお、本作では池脇が菊池寛に最初に会いに行った時に、将棋をしていた菊池寛が将棋の駒「角」を誤って食べてしまう場面がある。香川県高知市の菊池寛記念館が発行した「図録 菊池寛(1992年、平成4年)」には、佐藤碧子のコメントが書かれており(佐藤の晩年の写真入り)、実際に菊池寛が食べてしまったのは「角」ではなく「歩」であった。
本作の原作は、『こころの王国 菊池寛と文藝春秋の誕生』で、猪瀬直樹の2004年の作品。猪瀬は本作で直木三十五役で西田と対談を行う。本作では、関東大震災での朝鮮人虐殺を批判的に描いている。猪瀬は2012年から2013年まで18代東京都知事を務めたが、2016年から20代東京都知事の小池百合子が関東大震災における朝鮮人虐殺に関して「何が明白な事実かについては、歴史家がひもとくものだ」と述べており、関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文送付を中止した行動とは対極をなす。