マサキシンペイ

フルメタル・ジャケットのマサキシンペイのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
3.5
戦争によるヒューマニズムの滅却が、キューブリックの秩序立った画面構成によって表現された名作。

この作品は二部構成であり、前半は米軍新兵の訓練風景である。
凄まじい罵倒のリズムに合わせて、一糸乱れぬ動きで機械的に走る兵士達の姿には、さながらベルトコンベヤーを流れる工業製品を眺めているかのような快感があり、同時にそれは比喩表現としても成り立っている。一人の人間が兵器として製造されていく様は痛烈だった。

転じて後半は、ベトナム戦争に放り込まれた米兵のメンタリティーの描写であり、終わりの見えない緊張と仲間を失う悲しみと命を奪わなければならない恐れがリアルに描かれてはいるが、しかし「一般的な戦争映画」といった雰囲気になってしまい魅力が薄まったように感じた。
トラッシュメン「サーファーバード」のキチガイじみた陽気さやラストシーンの「マーチ」で、なんとか前半の空気を延命させてはいるが、後半の湿っぽさは蛇足にしか感じられない。

今作の特異な点は、戦争に対しての「慣れ」が描かれていることに尽きる。「慣れ」とは、思考の停止であり、表情の喪失であり、無感動であることだ。
つまり前半の「兵器製造」こそがこの映画の魅力の中心であり、後半の「戦争の悲惨さ」や感情描写が生々しくなるほどにその面白さが薄れているのだ。

なにより、この「慣れ」こそが、恐れの感情よりも逆説的に描かれるべき戦争の「恐ろしさ」だったのではないか。
マサキシンペイ

マサキシンペイ