朱音

Vフォー・ヴェンデッタの朱音のネタバレレビュー・内容・結末

Vフォー・ヴェンデッタ(2005年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

昔鑑賞した時はいまいちピンと来なかったが、後年、ジョージ・オーウェルの『1984』を読んで以降この手のディストピアものへの理解が一層深まった。
先の大戦によって荒廃した世界情勢、アメリカが解体しイギリスによって植民地化された世界観の中、右傾全体主義独裁国家として描かれたイギリスとその政権を握る党による支配体制。
いわゆるオセアニアであり、ビッグ・ブラザー党だ。
これに叛逆するのはガイ・フォークスの仮面を被った謎の男。
燃える。
様々な要素がシンボリックに描かれていて漫画的だ。もちろん映像に置き換えてもエレガントでかつ単純にカッコイイ。

昔鑑賞した際にはVがヒロインにしたことが兎に角インパクト大で、それにしてはあまりに意味がわからなくて困惑し、そればかりが印象に残ってしまっていたのだが、今ならわかる。
これは党の体制に飼い慣らされ、慣れきってしまった人間の、自由意志や、矛盾を矛盾として、欺瞞を欺瞞として暴く思想意識、そして本作の台詞にもある通り、曰く、(真正面から問題を見据えることの)恐怖を取り除く為に必要だった。
私はここに先に挙げたオーウェルの『1984』の洗脳シークエンスに似た、環境や社会に対する人の在り方、それをどう覆すのか、それを元に逆の手順で解釈しました。
イヴィーの場合、両親が既に党によって捕縛、殺害されているという過去がある分、まだ必然性があるし、またそうすべきことが彼女にとって最も必要な事だとVは感じ取っていたからこその行動であり、愛なのでしょう。
結果としてイヴィーは党の呪縛から解放され、叛逆の意志を繋ぐ継承が行われるのだ。

理解出来るとこんなに興味深い物語であった。
この映画はもっと色々な作品に触れ、それこそ『巌窟王』とか、シェイクスピアなど〜、映画の内外を補填する教養があって初めての映画体験となる。ひとえに難解と切ってしまうには勿体ない作品だったと思う。
そして私にはまだ解釈の至らない点が多い。楽しめる余地があるという事だ。

個人的にはもっと長い映画でも良かった気がする。
大衆がどう反応し、何に感化させるのか、その動きをもっとじっくり見せて欲しかった。その上であのラストの大行進ならばそこには強烈なシンパシーと感動が伴ったのではないかと思う。
党の成り立ちも説明されてはいるものの、何処か雑然としていて、ご都合的だ。今少し説得力に欠ける。


ナチスを彷彿とさせる党のデザインがちゃんとかっこよく作られているのは好感が持てる。これは原作由来のものかもしれない。
Vのシンボルマークである円にVを刻む印だが、これは見ての通りアナーキー(無政府主義)マークの上下逆だ。
そしてガイ・フォークスとはカトリックが迫害されていた17世紀初頭に実際にイングランドで起きた、政府転覆を狙った上院議場爆破未遂事件の実行犯の男の名で、彼は実行直前に逮捕され、激しい拷問の末、死刑にされている。
このマスクは今や世界的なハッカー集団アノニマスのシンボルにもなっている。
イギリスでは11月5日にはガイ・フォークス・ナイトと呼ばれる催しが行われ、各地で盛大に花火が打ち上げられる。それくらい知名度のある人物と逸話であり、だからこそシンボル足り得るのだ。
Vは現代に蘇ったガイ・フォークスであり、叛逆者であり、なおかつ人々にとっての希望なのだ。

このようにアラン・ムーアの原作には一般教養として予め履修しておかなくてはならない要素が多く、それを映画化した本作の敷居も相当に高い。

本作の最大の魅力はVを演じるヒューゴ・ヴィービングの"声"だ。本当に素晴らしいカリスマ性。
ラストのアクションの美麗さも流石だった。
朱音

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