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反撥のkomoのレビュー・感想・評価

反撥(1964年製作の映画)
4.0
美容室で働く美しい女性キャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、コリン(ジョン・フレイザー)という男性とぎこちこなく距離を縮めていた。
しかし共に暮らす姉(イヴォンヌ・フルノー)が既婚男性を自宅アパートに連れ込むようになってから生活が一変。夜ごと姉の情事の声を聴くことで精神が疲弊したキャロルは悪夢に悩まされるようになり、更には男性恐怖症にまで陥ってしまう。
やがて姉は男と共に長い旅行へ出かけて行った。家にひとり残るキャロルの元へコリンが訪ねてくる。しかしキャロルにとってはもう、男性は憎悪の対象でしかなくなっており……。


主人公の心の不安が画面にありありと映し出されてゆくサイコホラー。
『キャロルから見た世界の怖さ』と、『キャロルという女の怖さ』という2つの恐怖を一息に味わえるカメラワークとなっていました。
突如雷鳴のように鳴り響くSEもショッキングな演出で、それは重音であるはずなのに、キャロルの内面でこだまする悲鳴のようにも聴こえました。
そして言わずもがなドヌーヴ様の演技が凄まじく、特に眼の表現に気圧されました。

キャロルは美しい容姿を持ちながら、最初から最後までどうにも輪郭がぼやけている女性。
姉以外の人物への受け答えが曖昧であり、あまり自立性がなく、自分で自分が何を求めているかを掌握しきれていない。
そんな彼女の内向的なキャラクター像が、物語の不明確な部分を更にぼやけさせ、より得体の知れない恐ろしさを誘い出していました。

キャロルを直接的に狂わせたのは、ずっと一緒に過ごしてきた姉の不貞。
しかし世の中の女性たちの『年頃の女は恋愛すべき』『男と過ごすことは女の悦び』と言ったような"スタンダード化した価値観"も、キャロルを苦しめていたと思います。
更にそこへ不倫中の姉が、『これが女の性よ。悪い?』とでも言い出さんばかりに開き直っている。

繊細で潔癖で倫理的な心を持つキャロルは、どんな世界であれば狂わずにいられたのだろうか。
この映画は"狂った人物"を描写するエンターテイメントなので、ifを考えるのは無粋だけれども。
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