シズヲ

都会のアリスのシズヲのレビュー・感想・評価

都会のアリス(1973年製作の映画)
3.7
ドイツ人記者と幼い少女の旅路。ヴィム・ヴェンダース監督によるロードムービー三部作の一作目、ニュー・ジャーマン・シネマの代表作。子連れの放浪劇という筋書きは後年の『パリ、テキサス』っぽさもある。ヴェンダースも類似性を見出したというピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ペーパー・ムーン』の方がノスタルジックかつユーモラスなので好きだけどね。

ざらついた質感の撮影が印象深く、途方もない白黒の映像が哀愁めいた味わいに満ちている。作風の寡黙さも相俟って、疎外感や孤独感のようなものが画面から滲み出ている。そのうえで主人公と少女の旅路は緩慢で淡々としながらも、穏やかに流れていくような温もりがある。少女=アリスを演じる子役の生意気であどけない愛嬌が可愛らしい。転々としていくロケーションや記録の断片を繋ぎ合わせたような編集も、そのまま即興撮影的な旅路の演出として機能している。CANによる音楽も切なげなムードに満ちていて良い。

都会に飲まれた主人公の自己喪失感の根幹として、アメリカやメディアの存在がどこか象徴的に描かれている。どこへ行っても変わらない、薄っぺらい……混乱と動揺、孤独を背負いつつ、主人公はカメラを介して自己の世界を確かめようとする。そんな主人公の姿も相俟って、映画全体に何処かへと彷徨うかのような浮遊感が漂っている。主人公とアリスの旅路は素っ気ない演出で描かれつつ、それでも二人にとって不思議な充実感があったように見える。

やがてラストで飛び込んでくるのはジョン・フォードの訃報。何故だかここで凄くしんみりしてしまった。「物語を書くよ」「落書きね」そんな最後のやり取りが印象的。主人公が引き摺っていた蟠りの終焉のような、監督のハリウッドへの複雑な愛情のような、そんな余韻を残すラスト。列車を空から捉えたラストショットが清々しい。
シズヲ

シズヲ