大東亜戦争において、海軍の象徴的存在で「長門」と姉妹艦であった「陸奥」は、原因不明の爆発により沈没した。

この作品では、爆発の原因が敵側のスパイによっての犯行のストーリーで描かれてます。

昭和35年当時にしては、ミニチュアワークも実写映像とリンクさせ、なかなかの迫力です。

スパイ作品として観ても、サスペンスたっぷりで人の心の葛藤とか見ごたえあります。

天知茂は、今回は心優しい将校役でカッコ良く、その脇で若い頃の菅原文太が同じ将校役で。二人とも白い詰襟の軍服で凛々しいです。

◎B級ハニトラSpy Melodrama in 陸奥by小森白

1960年 新東宝 モノクロ 90分 シネマスコープ
＊画像はかなり鮮明

大蔵新東宝の注目の監督、小森白の４作目。

いやいや、面白いぢゃないっすか。

そりゃね、ミリオタさんにはアラばかり見えるでしょうよ。
でもって、堅物の温情副長かと思った伏見少佐by天知茂が、ハニトラ女スパイ明石美佐子by小畑絹子と相思相愛になって‥のメロドラマ始まった日にゃ、一体オレ様は何を観せられたんだ、ってな気分になるのも分かりますが、ね。

【以下、一応ネタバレ注意⚠️】








まぁ、もろもろ既にネタバレ済みってな感じですが、ご本家の予告編には敵いません。
一応、「謎の戦艦陸奥」の謎を解くミステリー仕立てになってるはずなんですが、予告編でぜ〜んぶ観せちゃってますから。

＊1 太平洋戦争　謎の戦艦陸奥　予告編
m.youtube.com/watch?v=sJh3xb57HLs

んで、問題の本作の政治性についてですが、冒頭に、
「此の映画は昭和18年6月8日 瀬戸内海柱島沖に謎の大爆沈を遂げた戦艦陸奥の悲劇的な終焉を劇的に構成したもので 登場人物を始め総て創作されたものであります
ここに不遇にして陸奥と共に戦没された乗組員将兵に対し謹んでこの一篇を捧げ 今も尚、海底に眠る英霊の冥福を祈ります」
と、ほとんど句読点のない文章が縦書き字幕で出ます。

ここで「英霊」って言うんだ、って思いましたが、本作の一番最後に、この文の後半と同趣旨のナレーションが入るんですが、そこでは「英霊」ではなく、単に「魂」って言ってました。

そりゃ、今も原因不明の爆発で艦長以下1121人も亡くなった大事件をミステリー仕立てのエンタメ映画にして消費しちゃうんですから、こうした表示は、戦後15年目の状況としては最低限の礼儀だったと思います。

で、戦艦陸奥に乗り組む海軍の上官には、勝沼少尉（御木本伸介）のように何かと言えば頭ごなしに張り手をかます鉄拳制裁派もいるものの否定的に描かれ、平野艦長（沼田曜一）も開明派だし、副長の伏見少佐（天知茂）は勝沼を制止する温情派として人物造形がされている。

また、伏見の伯父池上中将（細川俊夫）は、自ら「平和主義者」だと名乗り、「日本の戦争は平和のための戦いです」と主張する伏見に「平和のための戦争はあり得ない。戦争は罪悪だ」と言い切っている。
そして「だが、海軍は僕のような平和主義者は邪魔なんだ。だから前線に送られるんだ」と言わせている。

どうも当初のシナリオでは、池上もスパイの一味に加担することになっていたらしいが、現行の設定では削られているので、海軍の将校にも開明派が存在し、大戦を批判的に見ていたことが印象付けられる効果をもたらしている。
知的で冷静なイメージがぴったりの細川俊夫は、まさに適役で、白い海軍の軍服も似合って見た目もカッコいいのだ。

確かに美佐子のハニトラを仕掛ける女スパイとしては、ターゲットの伏見に本気になるあたり安易過ぎたり、大阪弁を話す軍需物資調達の業者三原友造（岬洋二）はスパイとしてポンコツ過ぎて、何度失敗すんねんと失笑させられるが、まぁB級戦史スパイサスペンスと割り切れば、それなりに楽しめる。

大体戦艦陸奥の軍事行動を追うのは、はじめの三分の一ぐらいまでかな。
モノクロだから、実際の当時の映像や、小森が助監督をつとめた1953年の阿部豊監督の『戦艦大和』からの使い回しもそこそこあるようだ。

小森白、前年1959年の『大東亜戦争と国際裁判』では「大東亜戦争」とタイトルにかざしたクセに、本作では「太平洋戦争」と宗旨替えしている。

『大東亜戦争と‥』の方も大蔵貢社長のゴリ押しだったか、それに小森も妥協したタイトルだったのではないか。

本作の頭と尻とで「英霊」が「魂」に入れ替わっているあたりに、そのあたりの事情を読み取りたいのは贔屓目だろうか。

【追記】
リンクしたレビューのなかに、本作の音楽を公開時に31歳と若かった松村禎三（1929-2007）が担当していることに注目されている方があった。

＊0 松村禎三略歴
salida1.web.fc2.com/matumurateizouryakureki.html

映画音楽の世界では、伊福部昭や芥川也寸志、黛敏郎らよりも有名ではないかも知れないが、池内友次郎や伊福部昭に師事し、東京芸大の作曲科で助教授、教授と長く教鞭を取った現代音楽界の重鎮である。
このことからも本作は製作側、大蔵社長はともかく、少なくとも小森監督は決してB級エンタメを狙っていたのではなく本格的戦史映画を作るつもりだったと言えるのではなかろうか。
こうした大蔵体制下でのB級エンタメ路線と本心としての社会派、良心派の揺れ動きのなかで両者のアマルガムのような作品を撮り続けたのが小森白という映画作家だったのではないか。
今のところ小森白監督の４作を通しての感想を、そのように総括しておきたい。

《その他の参考》
＊2 太平洋戦争　謎の戦艦陸奥
1960年4月1日公開、90分、戦争
moviewalker.jp/mv22792/

＊3 新東宝データベース1947-1962
太平洋戦争 謎の戦艦陸奥
nipponeiga.com/shintoho/film/1960/19600401.php

＊4-1 ネイビーブルーに恋をして
映画「謎の戦艦陸奥」前編　16/03/24
blog.goo.ne.jp/raffaell0/e/1249377a7c2308dec40dd8147a7225ec
＊4-2
映画「謎の戦艦陸奥」後編　16/03/25
blog.goo.ne.jp/raffaell0/e/6cbd0d80fd1969d6d03aaa2d389c57cc

＊5 信じていいの？　2020年08月24日
「太平洋戦争 謎の戦艦陸奥」[DVD]
rank-etc.seesaa.net/article/476998459.html

＊6 気分は友遊　2013-01-21 01:16
太平洋戦争　謎の戦艦陸奥
yuyuu1950.exblog.jp/21110323/

＊7 ALL-THE-CRAP　日々の貴重なガラクタ達
謎の戦艦陸奥：謎の中に真実がある
2021年11月15日
ameblo.jp/self-health-check/entry-12710319859.html

＊8 放出美級迷画座　和製サスペンス
www2u.biglobe.ne.jp/~kazu60/zanmai07/wasas2.htm

＊9 KINENOTE 太平洋戦争 謎の戦艦陸奥
www.kinenote.com/sp/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=22973

《上映館公式ページ》
シネヌーヴォ日本映画大回顧展
新東宝 映画まつり
　Preseted by 新東宝キネマノスタルジア
2024.7.6〜9.6 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/shintoho2024/shintoho2024sakuhin3.html

シネ・ヌーヴォさん新東宝映画まつり4本目。

ミニチュア撮影に見惚れて飽きずに楽しめるスパイアクションでした。

昔はウォーターラインシリーズの戦艦や巡洋艦、空母をよく作ってました。
おじいちゃん家からハードカバーの『日本軍艦100選』なんかも借りたりして読んでいたのですが、戦艦陸奥のことはすっかり忘れてた。

本作は戦艦陸奥の謎の爆沈にフィクションを絡めたストーリィだそうですが、陸奥の乗組員があまりにも不憫すぎる😱

イケボになる前の天知茂さんと菅原文太さんが若い美しい。

平和のための戦争は無い。
そう思っている人から真っ先に前線に送っていく、戦いたい者は温存。
考えられてるなあ。