クレセント

第三の男のクレセントのレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
4.8
二人の男は観覧車に乗り込んだ。男は待ち構えたようにしゃべり始めた。今の生活を捨てろ?自分を犠牲にして女を助けろ?お前の言う英雄なんて俺達には別世界だ。まずはわが身だ。お前は警察か?下を見ろ。あの点のような者が動かなくなったら同情するのか?あの点がひとつ消えれば2万ポンドだ。それでも否定するのか?それとも残りを数えるか?これは最新の金儲け術だ。証拠なんて何もない。お前以外はな。ところで、俺たちは何をしゃべっているんだ。これじゃ敵同士じゃないか。君は首を突っ込みすぎている。誰も人類のことなんか考えちゃあいない。なのになんで俺たちが?俺たちは似た者同士じゃないか。ホリー、仲間に入れよ。決心したら連絡をくれ。そう落ち込むな。こんな話がある。ボルジア家の30年、争い続きのイタリヤはルネッサンスが開花した。それに比べて兄弟愛のスイスは500年の民主主義と平和で鳩時計どまりだ。じゃあな。そう言い残して人懐っこい笑顔で立ち去る昔友達に、それでいて時折見せる鋭い眼差しに呆然とそして恐怖に立ちすくむもう一人の男。この映画の見どころは、信じて疑わなかった旧友の情け容赦ない生き方に打ちのめされた男が、最後には正義に目覚めそして矜持をもって立ち向かう姿を描いたところにある。しかし、それにもましてこの映画を見た観客がエンドロールの最後までも呆然として、しばらくは腰を上げることができなかったのは、惚れた男に最後まで望みを託した悲しい女の性をあのモノ悲しいチターの旋律に乗せて書き上げたところに世界の映画史に残る不朽の名作といわれる所以があるものと思う。
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