過去にレンタルで見た覚え。こうゆう変わったのを借りるんだよなぁ。内容はうろ覚えだけど日本の過去のしかもアンダーな部分を見れて良かった。何か覗き見してるようで。そんな戸籍も固定資産税も名前も正式になかった時代、良くも悪くも大らかでお咎めがなかった時代。

中島貞夫監督作品。

主演にショーケンこと萩原健一。
日本の民族学に関する本で“サンカ（せぶり）”と呼ばれる、欧米でいうところのジプシーのような生活をしていた幻の漂白民が日本にもいた事を知って興味を持ち、関連の資料を探していてこの映画の事を知りました。
正直、サンカに関する詳細を知らないと全くもってなんのこっちゃという映画ですが、少しでもサンカの事を見聞きした方には見応えのある作品だと思います。
丹念に取材したであろうサンカ独特の生活や習慣、風習の一端が映画作品として残っていた事自体がかなり貴重です。

また、ショーケンを始め他の演者の皆さんもかなり熱の入った演技を見せてくれていて、文部省推薦的なかなり真面目で地味な作品ですがなかなか見応えがあるかと思います。
この映画はレンタルにはなかなか置いてないかと思いますが（自分は購入しました）、もし観るチャンスがありましたら、ネットでも書籍でもいいですので先にサンカの基礎知識を頭に入れておくと、より深く作品を観れるかと思います。
テレ朝の「報道発ドキュメンタリ宣言」という番組でサンカを扱った回（こちらもかなり貴重な資料です！）がありますので、それの動画を見るとどういった民族か分かりやすいのでオススメです。

興味を持った方は是非！

◎幻想の漂泊民サンカに被差別民の姿を投影する

1985年 東映京都 カラー ビスタ 125分 35㎜

生粋の関東人である昭和初年生まれの亡くなった父が「サンカ」のことを話していたのを聞いたことがある。
山中などを転々と漂泊して生活すると言われた人々のことであるが、それだけ以前は人口に膾炙していたということなのだろうか。

本作は、中島貞夫が20年間あたためてきたサンカの生活を映画にしたいという念願を叶えた作品。

ところが、そもそも「サンカ」と呼ばれる人々の実在が学問的にはほとんど否定されているため、本作も、ある種のファンタジーとして観るしかない。

【以下ネタバレ注意⚠️】




確かに、ヨーロッパ中東部を中心に国境を超えて世界各地に居住地が広がるロマ（かつて日本ではジプシーと呼ばれていた）は有名だし、東アジアでも、中国には山岳地域に居住するグループも含めて55もの少数民族が、台湾では16の原住民族を政府が認定している。

しかし、「サンカ」については、民俗学の始祖とされる柳田國男もかつて言及していたものの、その後の展開は、ほとんど小説的な創作の産物に過ぎない三角寛の「研究」の影響下にあるものが大半を占め、アカデミックな立場からはその存在自体が否定されているのが現状である。

＊1 「サンカ」で検索
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/

＊2 福嶋敏雄の…そして、京都
（５６）柳田国男　即位式に興奮…サンカの民「実在」を信じた
2016/3/11 16:00　産経WEST　ライフ
www.sankei.com/article/20160311-IPRMYICOG5PRNF4R3P4XNY5IU4/

中島貞夫が企画した「サンカ映画」も、根拠としたのは三角寛の産物であり、20年前の企画当初の段階で中島は三角からサンカを撮ったフィルムを見せてもらっていたが、本作の準備段階では三角の遺族に尋ねてもフィルムは見つからなかったという。

＊3 「瀬降り物語」で検索　※製作の項参照
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/

そのためもあってか、本作ではサンカたちによる儀式の様子などが描かれるが、ほとんど三角の著作などからヒントを得る形で創作されたものと思われる。

彼らは日本神話のスサノオを祖神だと信じている設定だが、祝詞的なものが読み上げられる神事の後に演じられるのは、出雲系神楽のスサノオのヤマタノオロチ退治の演舞に他ならない。

アバンタイトルで、縦書きの毛筆体の字幕とともに、サンカや彼らの生活について説明されるが、なぜか出典の明記がない。
おそらく三角寛の著作からの引用なのだろう。

サンカが、彼ら以外の一般の日本人たちのことを「トウシロ」と呼ぶのは、「素人」を逆さ言葉にしたスラング「トーシロー」の借用にしか聴こえず、三角寛によるサンカ民俗学のお里が知れる元にしかならない。

山中の渓流の河原にテント（それがセブリらしい）を張って生活するのは、2001年の台湾映画『セデック・バレ』（202312.26レビュー）を想起させなくもない。
ただ、実際にセデック族の俳優が演じて見事に往時の彼らの生活が再現されていた『セデック・バレ』に対して、ロケ地となった四国松山あたりの伊予絣（かすり）をまとった本作のサンカたちは妙に小綺麗で、山の民というリアリティにも欠けていた。

‥‥という訳で、本作は、サンカを取り上げたほとんど唯一の映画として知られているようだが、Wikipediąにある部落解放同盟の介入（製作のトラブルの項参照）の如何以前に、映像作品として描こうにも、そもそも実態がないのだから描きようがない、という実情に過ぎないと思われる。

このあたり、東大卒業にも関わらず、中島貞夫に歴史学や民俗学などに関するアカデミックな素養が皆無だったことが、良くも悪くも、本作誕生のいちばんの原因だったと言うべきではなかろうか。

この「唯一」という点に関しては、2022年に笹谷遼平監督による『山歌』が公開されているようだ。
未見だが、機会があれば、観たいとも思う。

＊4 かつて存在した誇り高き放浪の民　新鋭監督が初の長編劇映画で挑戦＝寺脇研
2022年4月15日 有料記事
weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220426/se1/00m/020/017000c

＊5 映画『山歌』公式サイト
www.sanka-film.com

さて、『瀬降り物語』に戻ろう。

『セデック・バレ』を思わせる形で始まった本作は、後半に至って、サンカと普通の生活を営む村人たちとの「性愛」という形での接触と衝突がテーマとして前面に出て来る。

サンカの娘ヒデ（河野美地子）とジロー（光石研）が、後者の前者への肉欲の結果として結ばれるのである。

ヒデにとっては、男と結婚を前提としない性関係を持つことはハタムラというサンカが絶対守るべき掟を破ることになるが、ジローにとっては、それは一時の肉欲のなせるわざに過ぎなかったに違いない。

ジローとの結婚を懇願するヒデらサンカに対して、兄嫁ミツ（永島暎子）が投げかける罵詈雑言は、まさしく村人が被差別民に向けるそれであり、ミツが村人をけしかけてサンカたちを集団で虐待する姿は、まさしく『福田村‥』のそれに他ならない。

ここまでで終わったならば、本作は、『福田村事件』と同じく、日本人の多数者が無実の少数者を虐待、殺戮した「差別」の実相を描いた作品という評価になっただろう。

ところが、物語は、徴兵検査を嫌ったジローが、兵隊になることよりも、自分を愛するヒデと本当に結婚すること、自らサンカの一員となることを選ぶことで急展開を迎える。

ハタムラ破りの罰として、掟の執行者たるヤゾー（萩原健一）は、掟に従ってヒデを生き埋めにしていたが、ジローがヒデを掘り返して助けると、彼の意志を確認して、左目を潰し（徴兵を逃れるため）サンカの仲間に迎え入れる。

ここで「差別」の物語は、「性」を経由した若者たちの「愛」によって、思わぬハッピーエンドで終わるのだ。
『福田村事件』の悲劇は、かくして回避された。

サンカが実在が虚妄かは、もう問うまい。

23歳の光石研はあまりにも若く、現在の何でもござれの名バイプレイヤーの片鱗すらまだ感じさせない。

中島本人が審査員長として選んだ1983年の第一回「ミス映画村」河野美地子が若くみずみずしく純粋で美しいことは言うまでもない。

「差別」を乗り越えるのは「（性）愛」であった。

青春讃歌にして、性愛讃歌。
陳腐なようでいて、若い二人の肉体で演じられた結末には、確かに説得力とカタルシスがあった。

この点において、本作は、中島貞夫の力作の一つに数えられると言って良い。

《その他の参考》
＊6 瀬降り物語
1985年5月11日公開、125分
moviewalker.jp/mv17400/

＊7 ベルリン映画祭出品作品
瀬降り物語
akiboss.fc2web.com/seburi.htm

＊8 CinemaScape－映画批評空間
[コメント] 瀬降り物語(1985/日)
cinema.intercritique.com/comment.cgi?mid=12097

＊9 Gubuly Sabila Diary
サンカ(山窩)、映画『瀬降り物語』
2022-09-07
gubulykabila.blog.fc2.com/blog-entry-4832.html

＊10 愛媛県舞台の映画　瀬降り物語
www.yajyu.com/cinema/cinea9.htm

＊11 『瀬降り物語』　'85. 6.14.　第二劇場
www7b.biglobe.ne.jp/~magarinin/1985j/ 04.htm

《上映館公式ページ》
没後一周忌追悼　映画監督中島貞夫
2024.6.8〜6.28 シネ・ヌーヴォ
http://www.cinenouveau.com/sakuhin/nakajimasadao2024/nakajimasadao20024.html