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牢獄のhorahukiのレビュー・感想・評価

牢獄(1949年製作の映画)
4.0
人生は冷笑的な傑作に他ならない!

ベルイマン監督第6作。映画スタジオに「良いネタがあるぞ!」とやってきたのは精神病院退院明けのジジイ。それは「地球(現実)こそが地獄だ!」といったもの。「そういやそんな経験したことあるよ!」と友人トマスが地獄のようなダブル不倫話を語り始める…。

ベルイマンによる初オリジナルシナリオとなる記念碑的作品。最低経費という条件ならば好きに作らせてくれる…ということでベルイマンが撮影技法等、工夫を凝らして完成させたために、恐らくこれまでの大衆迎合ではない「自身の主観的な意識の探求」としての本来のテーマを余すことなく盛り込むことができたのでしょう。

『インド行きの船』の感想で、「借り物の象徴性」から孤高の源流を生み出すに至るベルイマンの転換点が気になるって書いたけど、本作が転換点で間違いなさそう。主題はこれまで繰り返してきたものとそう変わることはないながらも、答えることが不可能な人生における様々な命題を、孤独の『牢獄』の中で自問し続ける2人の主人公を本作では描いている。黄金期の作品をそんなに見てないけど、『第七の封印』とか何かそんな感じだし、めちゃくちゃベルイマン!って感じがした。

17歳でヒモ夫のために娼婦として生活してる少女が「こんな生活嫌だ!」と抜け出し、「一緒に自殺しようや!」と妻に言ったら瓶で頭を殴られ逃げられてしまった男と出会い、惹かれていく…というダブル不倫話が本筋。17歳で夫に娼婦として働かされてるってだけで既に地獄なんだけど、少女はそんな状況に特に抵抗がないってのもまた地獄。更には産んだ赤ちゃんも夫と姉に奪われて殺されてるという…マジで地獄!😱そりゃ逃げ出したくなりますわね。

『第七の封印』でも描かれた「希望」が本作の時点でも垣間見えるのも面白いし、人物のやり取りやフレーム内の参入・離脱を超絶長回しで見せる演劇的なシーンが多いのも楽しい。精神分析的な「夢」のシーンも『闇の中の音楽』に続き極めてホラー的に挿入され、超絶低予算が足枷としてではなく、優れた表現技法の確立として昇華してしまってるのは流石のベルイマンやね!

正直、とことんまでに盛り込まれた多すぎる命題に対して、この物語が余す事なく機能しているか…というのは疑問でしかないのだけど、作中の映画監督がラストに口にする「これを映画化することはできない。その理由は映画が答えようのない問で終わるから。出口がない。」という言葉が非常に印象的だった。

恐らく作中の監督はベルイマン自身を体現しているのだろうことから、この言葉は、ベルイマンが生涯をかけて続けていく命題の探求のスタートを切ったことを宣言したもののようにも捉えられるし、「地獄」の中で様々な自問をすることになるキャラクターたちは各主題に向けられた断片的な探求者としてのベルイマン自身の体現でもあるのでしょう。この「出口のない命題の探求」こそがベルイマンの映画監督としての本質なのだろうし、次作以降を見るのが楽しみになった。その前に飛ばしちゃってる『危機』とか『愛欲の港』とか見ないと!
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