horahuki

スタンダール・シンドロームのhorahukiのレビュー・感想・評価

4.3
お前は“俺”を忘れられるか!

レイプ対策局の刑事である主人公が、捜査中にレイプ犯にレイプされるというミイラ捕りがミイラに…なアルジェント製ジャーロ。しかもその主人公役を実娘にやらせるアルジェントさんパねぇ!!というか、レイプ犯の捜査に刑事とはいえ若い女性を単独で向かわせるってヤバ過ぎない?そんなもんなの?

『オペラ座血の喝采』以降のアルジェントって微妙イメージが強いけど、コレは面白かった!ジャーロがオワコン化して久しい90年代にここまでガチなジャーロを撮ってる時代錯誤感がサイコーだし、『歓びの毒牙』と同様な絵画モチーフを深掘りすることで、内面投影である芸術作品を通して主体を違えた鑑賞者側の内面が炙り出されていく…という絵画なり映画なりを“見る”という行為に対しての分析としてメタ的な構造を生み出しているのが流石過ぎてたまらない!

そのことを、モチーフになっている『スタンダールシンドローム』という、絵画を見て卒倒する実際の症例に重ねている。レイプ犯を追ってやってきた美術館で『イカロスの墜落のある風景』を見た瞬間に、主人公は絵画に描かれた海中へとイカロスの如くダイブし、魚とキスする幻影を見てぶっ倒れる。水に心的深層を託すのは『インフェルノ』と同様で、その奥にある魚という自己の隠されたペルソナと接合することで彼女の内面が表へと蝋ではない翼によって浮上し、“太陽”へと向かっていくことになる。

美術館で自身の欲望とのシーソーが始まるのはデパルマ『殺しのドレス』を思わせるし、白に滲む赤の対比もデパルマ以上に頻繁に取り入れてる。デパルマは『歓びの毒牙』は見たって発言してるから流石にアルジェントからは多少なりとも影響されてると私は思ってる(本人は否定)んだけど、こういうとこ見ると影響し合ってるのか同じモチーフ好きでこうなってるのか良くわかんなくなってくるね😅

そんで主人公はレイプ犯を自ら求めて欲望に囚われていくんだけど、更には髪型的にも男性的になって彼氏をレイプし始めたかと思えば、ブロンドのウィッグを被って如何にもな女性的姿に変身し、レイプ犯に変わる新しい男を求め始めたりと、とにかく内面がグッチャグチャ。恐らく父親からの性的虐待が幼い頃にあったのだろう匂わせがあって、レイプに対して嫌悪感ありつつのアンビバレントな感情をずっと抱えているのだろうことがわかる。

だから本作もアルジェント過去作と同様に親との訣別を描いていて、『サスペリア』や『オペラ座血の喝采』のようなポジティブな真の自己の解放ではなく、父親の死から時間が経ったからこその自己混濁の方に傾いているのはアルジェントの現状の反映として意味を持たせていそうな気がする。それを自分の娘使ってやってるのがほんと流石すぎて堪んない!🤣この家族どうなってんだろ😅
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