R

ストーカーのRのレビュー・感想・評価

ストーカー(1979年製作の映画)
4.7
ものすご久しぶりに見てみやした。これで4回目かな? 昔は見るたびに眠りに落ちたもんだが、今回ようやくちゃんと最初から最後までギンギン状態で見れた^ ^ ストーカーとは、しつこく付きまとってくる変態のことではなく、本作では、ソ連の立ち入り禁止区域の中にある何でも願いをひとつだけ叶えてくれる場所「ゾーン」への案内人のことを指します。さて、そのゾーンとは、線路の向こうの緑がカオスのように生い茂る草原にあるボロボロの廃墟の中の一室のこと。そこに3人のハゲが辿り着こうとする哲学アドベンチャーです。一人はストーカーでまぁ普通のハゲ。一人は物理学者のハゲ。一人は作家のハゲ。この3ハゲトリオがゾーンに向かう。ゾーンの区域に入る前と出た後は、セピアの映像で荒廃しきった現実の街をとらえてて、これがめちゃめちゃカッコいい。凍てつくようなクールな映像の連続! さすがタルコフスキー! 一方、ゾーン区域内はカラーで、鬱蒼と茂った自然と人間の業によって汚染された廃墟が、まるで人間精神の迷宮のよう。見る者は少しずつ奥へ奥へと誘われる。全体に漂う神秘的な静謐と哲学的な情緒は、好むと好まざるとに関わらず、間違いなく万人の脳裏に焼きつくだろう。メインキャラの3人はそれぞれ実に面白いコントラストを成している。学者は科学的関心からこの探検に参加しており、ゾーンの謎を解明し、それを科学的解釈に還元したいと考えている。神秘を事実として観測したい、真理を科学的に探求したい、と。ただ終盤近くで、彼には隠れた別の目的あることが明らかになるのだが…。作家は、作品創作のインスピレーションを求めてゾーンを目指している。こいつはとてもニヒルな男で、人間は大した力を持ってないし、あらゆる物事には大した意味がない、と思ってる。そんな中で、創造することだけが、辛うじて純粋で無欲な活動だと語る。もう一人のストーカーは、難しいことを考えてみるようなことはしない、至って素朴な神秘信仰者。派手な欲望はないが、他者の願いのために自分にできることがあるならば、家族をほったらかしてでもそれをしようとする。この3人に共通しているのは、私生活では幸福感や充足感をぜんぜん感じていないということ。考えてみると、この3人は現代を生きてる普通からちょっと外れた人たちの代表と言えるかもしれない。ごく一般的な人ってのは本作にはほぼ出てこないし、出ててもほんのちょい役。そして、ゾーンに至る道は、濁悪に満ちた現代世界のメタファーなのではないだろうか。この場所は人間の内面に影響を受けるんだみたいなこと言うてたしね。で、ゴールまでのルートに潜む様々なトラップをくぐり抜けて、3人はゾーンにたどり着くことができるのか…⁈ というお話。まーとにかくワンショットワンショットがものすご長く、超スローペースで瞑想的なため、見てるといろーんな思考を刺激される。自分の思想の軸をしっかり意識し、そこを足場にして見てないと話の流れが掴みにくく感じるかもしれない。3人の言ってることにある程度共鳴できる人もいるとは思うが、ボク個人としては、ほとんど誰にも同調できなかったなー。自分からいちばん遠いのは作家、二番目は科学者、三番目はストーカー、でもストーカーですらだいぶ遠い。還元主義に対しては、科学で得られる知識は真理全体から考えるとごくごく一部でしかなく、それにすべてが当てはまるわけないやん、て思ってまうし、虚無主義に対しては、あるものはある、ないものはない。無から有が生まれるなどこの世界では絶対にあり得ないので、意味や価値という次元は確実に存在するでしょ、って思う。神秘主義に対しては、人間は現世における幸福こそが重要なのであって、現実離れした気まぐれな奇跡を盲信して失望し、絶望した人間がどれだけいるか分かってんのか⁈って思う。あと、もう一個気になったのが、強いと硬いってぜんぜん同義じゃなくね? 字幕の和訳の問題なのかな?とも思ったけど。で、最後の、一番ふつーな人間、すなわち奥さんの言葉、この人は女性らしい、覚悟の決まった、一番もっともなこと言うんやけど、ちょっと重すぎるわ。どんだけ大変でももう少し楽観的にいきたいものだ。ラストシーンも、うーん…人に特別な能力が備わったからといって、それで人生の不幸という問題を解決することには絶対にならない。主体と環境の関係に微々たる変化が起こるってだけ。変化が定着してしまえば、また同じ、自分の精神という問題に帰って来なければならない。タルコフスキーの映画ってどれもめちゃくちゃ面白いし、すさまじいレベルの詩情がまつわってて、毎度感嘆&感動するんやけど、常にツッコミどころがあるので、Take it easy, man! って言いたくなる笑 けど、もちろん強く賛同する部分もあって、人間は信じることができなくなるからこそ不幸になるのだ、ってとこは、マジそのとーりだと思う。ボクは常々、信じる力≒生命力、と思ってるので、信じる力をどうやって強化していくかが大事なんちゃうの? 何でそこもっと掘り下げへんねやろ。と、延々見せつけられるハゲ頭を眺めながら、ついつい思ってしまうのでした。はっ、長々と書いてしまった。では、おやすみ。
R

R