アンゲロプロスは残酷な現実をよく理解している監督だ。
そしてそんな厳しい現実を踏まえて、巨大な社会の苦難の中で試行錯誤する小さな個人に、まさに遠くからそっと温かい目を向ける監督だと思う。
アンゲロプロスは、個人や団体を描きながら、必ず現代の社会問題と、普遍的な人間を描き、観客に考えることを突きつけてくる。
本作は彼の残した多くの作品の中でも、より小さな姉弟を主役にしている。だからこそ、他の作品に比べてリリカルな印象があり、あらゆる場面は寓話的に見える。
ところがそこはアンゲロプロスらしく、社会と子どもとの力の関係性をしっかりと描いて浮き彫りにしている。
アンゲロプロスは、あえてうまく物語を終わらせないことが多い。それは、彼が目を向けた社会問題がまだ終わらないからで、あえてうまく終わらせていないのではないかと思える。
その点、本作は悲劇的ながら物語はおさまりよく閉じる。それは、アンゲロプロスが社会と子どもの問題に対して言いたいことを大体言い終えたからだと思う。
そしてその終わり方、映画としてのまとまり方が、すんなりと胸におさまり好印象が残っている。
大きな問題をテーマにして、茫洋とした収まりの悪い作品と、テーマを語り切ってまとまった作品。印象も点数も後者がよくなり、本作はまさに後者だが、そのどちらにも創作者としての強い野心がうかがえる。
だからこそ、私はどちらのアンゲロプロスもとても好ましく感じている。