小

トガニ 幼き瞳の告発の小のレビュー・感想・評価

トガニ 幼き瞳の告発(2011年製作の映画)
4.7
やられた。韓国のある聴覚障害者学校で実際に起こった性的虐待事件を映画化した作品。キネカ大森の『韓国映画“夏祭り”~さよならCJEJ~』で鑑賞。

この映画が公開されるやたちまち大反響となり、裁判が終了していたにもかかわらず、学校の職員が再逮捕され、子どもや障害者に対する性暴力の時効廃止と厳罰化を強めた「トガニ法」と呼ばれる法改正にまで及んだ。

多分、日本では映画をきっかけにこうした社会現象って起きないよなあ、ということがとても気になった。韓国が熱いのか、日本が冷めているのか。韓国の「映画の力」を思い、日本は権力に対峙する当事者能力を失っているのではないか、などと自省とも自虐ともつかない、ありがちな妄想をした。

でも、やられたと思ったのは、韓国の「映画の力」みたいなことではない。ネットでこの映画についての記事を、ガムを噛みながら読んでいた際、監督の次の言葉で思わず噛む口が止まった。

<「たしかに自分が創った映画によって、社会が変わって良かったと思うところもあります。しかし、実際虐待を受けた子どもたちの面倒を見てくれた方からこんな話をされました。『自分たちが5、6年闘っても、なにひとつ変わらなかったのに、映画によって状況が一変した。ならば、もっと早く変わっても良かったんじゃないか』と。それを聞いて、ちょっとほろ苦く感じました。韓国社会は、まだまだ未成熟です」>。
(http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20120809/1042417/)

そうだよ、映画の力だなんて浮かれている場合ではないではないか。事件発生は2000年、テレビ報道で表沙汰になったのが2005年。裁判が終了し、原作本が出版されたのが2009年、映画の公開が2011年9月、再逮捕とトガニ法への法改正が2012年10月。

テレビ報道から映画公開まで6年、何も変わりそうもなかった世の中が、映画公開から1年でガラッと変わった。「韓国社会は、まだまだ未成熟です」という言葉が、この社会現象の本質を言い当てている。

先の記事には、韓国で何故こうした映画が作られヒットするのかについて、詳しく書かれていて面白い( 「トガニ」「日経トレンディ」でググるとヒットすると思います)。この記事のおかげもあって、映画によってこんなにもはっきりと社会が動きそうにない日本は成熟しているのか、それとも韓国より未成熟なのかということが、当面のマイテーマになりそう。

大ヒットするだけあって、映画の内容はとても良い。これほど社会性の強いテーマにもかかわらず、映画的な盛り上がりや感動がきっちり作り込まれていて目が離せない。こういう感じで作れるのって、他にはハリウッドくらいじゃないの、と思ってしまう。

ストーリーは、虐待を告発する主人公の美術教師、カン・イノが深く葛藤し、自分自身と闘うことが軸になっている。

とあるシーンで感情を激しく爆発させるイノに、まったく大げさな感じがせず、とても共感してしまう。そこにいたるまでのストーリー展開の上手さを感じる。

そして、イノが母親に追い詰められた際の、自分なら逆上してしまいそうな場面で、どう返すのかと固唾をのんでみていたら、そうくるか!と、とても感動した。強い信念とは、やはり大切な人のためにあるものなのだと、改めて深く刻み込まれた。

劇中、「闘うのは、世の中を変えるためではなく、世の中が変わっても自分が変わらないため」というような趣旨の言葉が出てくるけれど、このことをテーマにし、とても共感できる回答を示してくれた本作のことを、人生の大事な場面で、きっと思い出すだろうという気がしている。

●物語(50%×5.0):2.50
・実話ベースゆえカタルシスでスッキリではなく、人生はこれからも闘いが続いていく感じ。それにしてもこの難しいテーマを上手く描いたなあと。

●キャスト、演出(30%×4.5):1.35
・主役のコン・ユはカッコよすぎるけれど、問題なく感情移入できる良さだった。子役もとても良い。一人二役の悪役の俳優さんが、憎たらしすぎて、でもそれだから良い。虐待のシーンは人によっては厳しいかもしれない。

●映像、音、音楽(20%×4.0):0.80
・深い霧の雰囲気が、恐怖を感じるシーンが上手い。
小