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夜の第三部分のhorahukiのレビュー・感想・評価

夜の第三部分(1972年製作の映画)
4.1
愛の対極は残酷

大量のシラミに血を吸わせて稼いだ金で、初対面の母子を養おうとする話。私はキモくて絶対嫌だけど、このシラミ実験の被験者募集に大量応募があるあたり、ナチス占領下のポーランドの地獄感がより伝わってくるね…😱

ズラウスキーは『シルバーグローブ』から入ったから変なイメージついちゃってるんだけど、普通に長編デビュー作のコレから見るべきだった😂もちろん『シルバーグローブ』も面白かったんだけど、アレは流石にぶっ飛び過ぎてて戸惑った。でも本作はあちらに比べたら相当見やすくて、シームレスに現実と悪夢的映像が行き来する作風が好み。

極端に人物に接近したカメラから引いていくことで徐々に全容を明らかにし、ズラウスキー映画でよく見られる左右へと大きく振るカメラと境界を跨いだ空間の奥行きの中で人物とその関係性をどんどん上乗せしていく冒頭の鮮やかさがデビュー作とは思えない只者じゃない感出しまくってて素晴らしい。

そこから開かれる扉と先に薄らと見える父親が彼ら家族の距離感を表し、送り出す行為は、まるで地獄から逃すかのような印象すらも受ける。その後の他国による蹂躙はポランスキー作品でも通底する危機と隣り合わせなポーランドの日常を強烈なインパクトを持って描き、成り代わりの虚しさを経て、その経験はナチスへの反抗としてではなく、このような地獄の中で「生かされた生・与えられた生」の価値を見出すための内省的な自問・贖罪映画へと舵を切る。

息をするかのように簡単に齎される「死」と対比するかのように「生」の誕生プロセスの困難さを描き、その「生」を生かすために自身の「生」を燃やす。写し身に対する贖罪の「正しさ」に対してすらも自問しながら、その正当性を信じて(自分で無理やりにでも納得させて)、借り物の生を燃やし続ける姿は、自身に対する贖罪にも見えてくる。

とはいえラストをどう見るかでそのあたりは覆りそうだけど、日常も命も奪われるのが当たり前となった地獄の中で、何かに意味を求めることが生の拠り所となっていくのは本当に辛いし、その自分で作り出した「意味」すらも無へと堕ちてくような感覚にさせられた。そこに合わさる7つのラッパの引用が諦めにも似た厭世的な感情を湧き上がらせ、突き放されるかのような余韻が本当に素晴らしかった。
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