むらみさ

わたしを離さないでのむらみさのネタバレレビュー・内容・結末

わたしを離さないで(2010年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

本作には原作にはない映画的表現で成功している場面ありー
浜辺に打ち上げられた‘Arc’(舟)。
荒涼とした風景のなかの静謐な語り口が原作の魅力であるならば、色褪せ白んだ景色にたたずむ一艘の舟で3人の孤独感を際立たせた場面。
まさに、映画的…

だがやはり、映像化したことで原作から失われたものもある。
主人公キャシー・Hの独白を通して形を現してくる世の不条理が本の表現の良さで、形が先に在る映像では個人が際立つ結果となった様に思う。

キャシー、ルース、トミー3人の恋と裏切りを主軸に動いていくのだが、各々の人生に寄り添う毎に臓器移植のモチーフは非現実的に見えてくる。
設定に無理が感じられ、観賞者は置き去りにされていく気がした。
3人の役者が各々キャラクターを昇華させ素敵な演技をしているだけに、彼らの人生と巻き込まれる運命を無理やり力わざで繋げた印象。

丁寧に、原作の良さを活かし作ろうとしているのが伝わるので観て悔いはない(カズオ・イシグロ氏もクレジットに出ていた)が、その世界は作りきれていなかった様に思う。

原作の思い出のカセットテープ「NEVER LET ME GO」がキャシーの人生に与えたもの、も描かれていなかったのが残念。
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