R

愛に関する短いフィルムのRのレビュー・感想・評価

愛に関する短いフィルム(1988年製作の映画)
4.5
クシシュトフキェシロフスキ監督による十戒をモチーフにした鬱々たる10話の名作ドラマ『デカローグ』。昔から大大大好きなのだが、その中の一編を1時間から90分ほどの劇場版に編集し直したバージョンのようです。デカローグ自体見たのがだいぶ昔なのでハッキリと覚えてるわけではないが、終わり方の印象がかなり違う気がした。また見てみなあかんなぁ。主人公は孤児院で育った19歳の童貞君トメク。彼の唯一の友人が現在出征中なので、友人の母のアパートの空いた一室を間借りして、彼女とふたりで暮らしている。彼はずっと孤独に生きてきたためか、内向的で、感情を表に出さず、口数も少ない。そんな彼は、向かいのアパートに住んでいる年増の女性マグダに、言葉を交わしたこともないのに、恋してしまい、夜な夜な望遠鏡で覗き見をしている。マグダは恋多き女で、しばしば男に抱かれ、ある夜は、傷ついて涙を流していた。トメクの勤める郵便局に客としてやって来たマグダ、用事を済ませ出て行く彼女、思わず追いかけるトメク、ついに声をかける、君は昨日泣いていた!と。なぜ追いかけてくるの? 愛してるから! わーお、ゆーてもーたやーんトメク君! 一体どうなるんだー?とハラハラしてると、そこからまさかの愛に関する純情のお話が展開していく! その中には、世にも可愛らしい射精シーンがございます。キュンキュンいたします。こんなシーンをこんなサディスティックに演出するだなんて、変態でしょうか、監督は、と思ってると、ひっくり返す。見事な語り。トメク君の悲しみのお話かと思ってたら、マグダさんの悲しみのお話に変わり、そして、結局、マグダさんの心の大きな変化をもって本作は終わります。私たちは、普通に生活していると、ときおり、恋愛上手という言葉を耳にします。ボクは、その言葉、結構間違って使われてるな、と思う。いいなと思う人が現れるとすぐ恋人になって、ある程度付き合ったあと別れると、速攻で次のいい相手を見つける、ってのを繰り返して、ヒラヒラ生きるのが恋愛上手、みたいな。ホントですか、それは。ボクにとっては、それは恋愛下手としか思われません。真の恋愛上手とは、人生で一回しか恋愛しない人だと思う。初めの愛の気持ちをフレッシュなまま保ち続け、大樹のように育てられる人、これこそがホントの恋愛上手なのでは。植えて芽が出たら引っこ抜いて、また植えて芽が出たら引っこ抜いて、それでは何も育たない。もちろん本作ではそんなことは語ってないけど、そういうことを考えさせる。愛の純粋さ、そのフレッシュさに立ち返るお話であると思います。多少キモいのはまぁ置いといて笑 あと、愛とは性衝動の引き起こす幻想である、と錯覚してしまう哀しみも描いてあります。これは非常に若い、思春期くらいの人の感性だと思うけど、40代でそれを描くとは、キェシロフスキ監督、何たる若々しさ。けど、それとは真逆に、人は人生に耐えられらくなったときに泣くのよ、人生は苦悩ばかりよ、と婆さんに語らせたりもする。不思議な人だ。ちなみに本作はほとんどのシーンが夜なのもあって、静かで、暗く、淡々としてて、それが瞑想的なムードを醸し出してる。とても良い雰囲。けど眠いときには見ない方がよろしいかと思われます。まぁデカローグ全部そうやけど。ついでに殺人に関する短いフィルムの劇場版も見てみよっかな。
R

R