R

狼の時刻のRのレビュー・感想・評価

狼の時刻(1966年製作の映画)
4.8
ベルイマン+ホラー、という我が大好物コンボの最高の映画! しかもゴシックテイスト。めちゃめちゃ好きやのに、なぜかまだ5回しか見ていない。見たらもっと見たい!ってなるのになぜでしょう。まいいや。画家のユーハンと奥さんのアルマは、小島で二人きりで暮らしているのだが、ユーハンが何やよーわからん(でもない)けどあれよあれよと頭がおかしなって、狂気の世界にはまり込んでいく。その側で、何とか現実にしがみつこうとするアルマ。だが、彼女も少しずつユーハンの狂気に引っ張られて、ついに…! って話。ユーハンはなぜ気が狂ってしまったのか、いつからそうなったのか、など、ちょいちょいいろんなヒントが与えられるのだが、結局最後まで明確になることなく謎めいてるのにたまらなくそそられるし、見せられる映像のどれが客観的現実(そんなものがあるとするならば)で、どれがユーハンの主観で、どれがアルマの主観なのか、まったく判然としないのもスリリング。このミステリアスさが本作の最大の魅力。ユーハンの芸術家としての無力感、エロスへの哀しき渇望、幼年時代の虐待の記憶、数年前のある忌まわしき秘密などなどがさまざまな演出で語られていくんやけど、特に忌まわしき秘密シーンのドぎついコントラストとエロティシズムと魔性のインパクトと言ったら! すごい! 好き! あと、幼年期の暗闇の部屋の記憶を語るシーンは、見るたびに、自分が幼年期に受けた似たようなお仕置きの記憶とリンクして、胸がゾワっとくる。快感❤︎ そして、まだ現実との境い目を往き来してるじっとりボソボソした前半から、アーーーイッテシマワレタ!ってなる後半の飛躍! ヤバい! 楽しい! で、そんくらいで終わるかと思いきや、もうひと超えあって、え、ちょっと待って、てことは、語り部であるアルマは…果たして……えーーーーどうなのーーーー!!! となります。面白すぎます。そして、考えます、この世界には100%客観的な現実などというものは存在していないということを。生きとし生けるものは誰しも皆さん自分の主観のなかで以外、生きることは絶対にできません。狂った人間の経験することは、彼の中では絶対的現実なのであります。それを勘違い、間違い、キチガイ、とするのは、世界の本質的姿である「カオス」に何らかの秩序をもたらしたいと考える多数派の人間(しかもホントはみんな見えてる世界はバラバラ)の規定するあやふやな基準だけ。ある主観がその基準からぐーんと外れたら狂人になる。けど、彼が狂人だと誰に言えよう。彼を狂人だと決めるのは、絶対的な城の中に住むモンスターたちなのですから。アホらし! ところで、この世界がカオスってどういうこと?ってよく分からない人は、これを考えてみるとよいかと思います。あなたとは一体何者ですか、という問いを。名前とか肩書きとかそういうことをきいてるんじゃない。あなたという存在は一体何なのですか、ときいてるのです。黒沢監督のCUREで謎の青年が刑事さんにきいてたあの根源的問いであります。あなたという主観が存在してることが、なぜなのか、どういうことなのか、それを説明できる人は極々少ないでしょうし、それがそもそも世界がカオスである証左だと言って過言ではないでしょう。そんな謎な主観で世界は満ち満ちているのだから。では、ほんとにこの世界はカオスなのか、と反論を試みてみよう。その答えは、ユニヴァースを見るしかないと個人的には思っている。そして、人間の持てる最大の演繹力で、そのはたらき、その法則を、一気に捉えるしかない。なぜか。なぜなら、あらゆる物質を生み出しているのは大宇宙の働きであるし、あらゆる生命を生み出しているのも大宇宙の働きであるし、精神を生み出しているのも大宇宙の働きであるから。大宇宙はそれらを生み出すエネルギーの海と言えるだろう。では、このユニヴァースは果たして、完全なるカオスなのだろうか。いや、どう考えても、宇宙には一定の物理的法則があり、それに従ってあらゆるものは存在しているはずである、ならば、全宇宙を貫く精神的法則というものも存在しないはずがないではないか。これを把握することなしに、人間のカオスが真の意味で秩序を持つことは無理なのではないかと個人的に思ってます。ひと握り存在するその秩序を悟った人間を除いて、ほぼ全員が、それぞれにクレイジーかモンスターか、どちらかである。この映画を見てて、それをすごく強く感じた。すんごく話が横道に逸れたけど笑 そんなこと考えさせる映画ってなかなかないので、やっぱベルイマンは天才としか言いようがない。最後に、こんなに好きな映画やのに、なぜ五つ星をつけないのかの理由を、ふたつ述べておきます。ひとつは、不気味すぎる映像とサウンドのインパクトがすごすぎて、字幕を読んで理解するのが追いつかないのと、もうひとつは、見てる間ずっと思考がいろんなとこに広がって、うまく映画世界に集中できないこと。これらは、もちろん良い点でもあるのだが、何度も早戻しして見ないといけないというめんどくささを考慮して。でも、大大大大大好き!!! 好き!!!
R

R