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ザ・バニシング-消失-のhorahukiのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
4.1
金色の卵が2つ…

やっと見に行けた!
本当は2週間前に行く予定だったのだけど、延び延びになってしまってGW初日に行ってきました。まだやってて良かった。

非常に巧みなのは、やはり喪失と好奇心と何より愛情により作り出される心的牢獄の表現。通常ならばあり得ない領域にも関わらず、そちらへ進むよう自らを駆り立てる「愛」という名の狂気。そしてその牢獄を分析し、計算づくて外側からいとも簡単に利用してしまう彼の「異常」という一方向へと向けられた圧倒的な熱量と周到さ。そしてそこから来る自信と余裕。本作の怖さはこういったところにあるのだと思います。

しかもその牢獄を作り上げてしまったのは自分自身なのであり、元を辿ればそれは愛情という真っ当で光り輝く希望としての感情。愛情が絶望へと転化し、愛情が強ければ強いほど形作られる牢獄は強固になる。そう考えれば彼は牢獄によって牢獄から解放されたのだなと。そういった見方をすれば本作は救いを描いた作品になるし、愛情という狂気に絡め取られた人間を救うことはできないという救いのない結論を逆説的に導き出す。

誘拐までの展開もとても上手くてドキドキしました。車の中での少しの夫婦の会話と燃料のくだりで、夫としての役割を果たそうと意気込みつつも現実ではなかなかうまくいかないことを表現。これから楽しい旅行だってのに、ちょっとした苛立ちでお互いにしたくもない喧嘩を始めてしまうというあるある感、その後の仲直りまで含めて妙に現実感があって見てて引き込まれたし、あまりにもあるある過ぎて自分に置き換えて考えちゃうから、誘拐事件が起こることはわかってるんだけど、2人の旅行が楽しくなるように祈ってしまう。

しかも「ここで誘拐されるんか?」っていうくだりを何個か挟んでスカしてくるから、それによる緊迫感の緩急と、楽しい旅行になって欲しいって気持ちが相乗効果を生んですっごくハラハラしました。

そして犯人側の日常を映し出すシーンが非常に多いことが新鮮だった。良い夫として良い父親として家族の前で振る舞いつつも、その日常的振る舞いの中に家族を相手取って、なおかつ気づかれずに誘拐のリハーサルを組み込む周到さと、守るべき家族という存在をこれから誘拐しようとする見ず知らずの誰かと重ね合わせてしまうその行為の異常性にゾクゾクした。

理由のないサイコパス的な狂気という「裏」を覆い隠す、良い父親・良い夫としての「表」。人の多面性から来る、身近な者すら感じ取れない隠された狂気と、前述のような愛情という狂気。本作は2つの狂気が入り混じった面白いサイコスリラーでした。『エンドゲーム』後で素直に楽しめるか不安だったけど、めちゃくちゃ面白かった。これは見に行って良かった♫
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