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ザ・バニシング-消失-のRのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
4.7
おおおおおお。これは恐ろしい。人間の好奇心が引き起こすふたつのホラーをジリジリと描いた傑作ミステリーだと思います。ツールドフランスが開かれる夏、南仏の別荘を借りてサイクリングを楽しもうとオランダから移動中の若い夫婦が、休憩のため、ドライブインに立ち寄ります。そこで奥さんのサスキアはトイレに行って飲み物を買ってくるわ、と建物の中に入っていく。待ってる夫のレックスは、なかなか戻って来ないサスキアがだんだん心配になり、日が暮れても姿を現さないので、居ても立ってもいられなくなる……そのまま3年が経ち、いまだに真相は判らぬまま……と同時に、この失踪事件に何らかの形で関与しているであろう、レイモンという家族持ちの化学の教師が、誘拐の準備とリハーサルを淡々と行っていく様子がダークなユーモアをもって描かれていく。お話のほぼど頭から、いかにもこのレイモンが怪しげなのだが、けど実際サスキアに何が起こったのかはまったく分からない。その真相を、二人の視点から、過去現在を行きつ戻りつしつつ、少しずつあきらかにしていく。ボク的には、本作の映像の雰囲気がとても好き。長閑で美しい風景や町並みが鮮やかな明るさに包まれる南仏。アァ、きれいだなぁ、清涼だなぁ、ってなかで、悶々と妻の行方を探すことに執着するレックスと、そのことについて楽しそうにしてる不気味なサイコパスの対比がとっても鮮烈。全編低温で淡々とた演出であるが故に、毒気の強烈なリアリズムがヒリヒリと心に染み込んでくる。音楽もつねに不穏で気持ち悪い。俳優たちは存在感が素晴らしく、とりわけレイモン演じるベルナールピエールドナデューは忘れがたい怪演。ガタイいいし、頭良さそうやし、そこそこイケメンなファミリーマンなので、この人の魅力に始終始終釘づけやったと言えます。怖かったけど。主人公を演じるジーンベルヴォーツは登場人物の中では比較的印象うすいけど、まぁ何や言うて、とんでもない目に遭わせられるし、人生狂わされすぎやし、同情せざるを得ない。見てる我々の欲求は主人公の欲求と重なり、レイモンドの欲求と対峙することになる。一体我々は無事に真実を知り、サスキアを見つけることができるのだろうか、てか、我々は一体いつまでじらされるのであろうか。ってなったあとのクライマックスは体全体がいいいいいいいいーーーーーー!!!ってなりました。ほんまにいいいいーーーーーてなる。一瞬にして身体的感覚がおかしくなる。すげー。未曾有の底無し恐怖がリアルな感覚として伝わってくる。すごいです。こんな感覚なかなか味わえない。そして、戦慄する、こんなにも恐ろしい悪が、こんなに明るく平和な日常に、他の誰とも変わりなく存在する。そのことをこんなに強烈に感じさせる映画は他になかなかないと思う。悪夢的リアリズム。何作か連続で、心にこびりつく最悪な悪夢のような映画を見て、私はいま、天にも昇る気分である。ほんとこういうの好き。ただ、ひとつ、非常に残念だなと思ったのが、最初の方で、あれ? この映画、何か見たことある気するぞ、と思って、ひょっとしてこういう展開になるんじゃないか? って思ってたら、予想がバッチシ当たって、真相に対する驚き自体は全くなかったこと…alas、何と、むかーしクソボケ中学生だった時代に、惚れ込んで何度も見たハリウッド映画がありまして、本作はそれのオリジナルなのでした……ひゃーーーーー。まぁそれでも最高に楽しめたけどね。見てなかったらもっと純粋に楽しめただろうね……しかもリメイク版、同じ監督なんだね……むかし大好きだったけど今見たらどう感じるのか。すごく気になる。近々見てみようかな。
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