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マンハッタン・ベイビーのhorahukiのレビュー・感想・評価

マンハッタン・ベイビー(1982年製作の映画)
3.7
エジプトで白眼の女から手渡された宝石。
それはあらゆる悪の奇跡を可能とする危険なアイテムだった…。
それを知らずに持ち帰った少女スージーの周りで行方不明事件が多発する等奇怪なことが起こり始め、パパとママがテンヤワンヤするオカルトホラー。

イタリアスプラッターの帝王と呼ばれるルチオフルチ監督による、残虐描写抑えめな「らしくない」作品。製作会社からエジプトロケを強要されたり、予算が3分の1に減らされたりと監督の思ったことがうまくできなかったために苦労されたようです。

それでもエジプトロケを行なったからこその異様な雰囲気はしっかりと感じられる。少女スージーに宝石を手渡す黒衣+白眼の女性をスージーの肩越しにピントの移動や青白いモヤを交えて捉えた画が非常に神秘的かつ悪魔的な印象を受けるし、スージーと黒衣の女がいる神殿のような場所を俯瞰で映しつつ黒衣の女が消えていくという映像が纏う異国故の恐ろしさ・不気味さはやはりエジプトロケの賜物であろうと思います。

ただ、その後についてはそれほど映像的な魅力は感じなかった。フルチと言えば執拗なまでの眼球責めですが、本作では一切見られず。。。「悪趣味」が褒め言葉となるほどの突き抜けた残虐・グロ描写もほとんどない。ただ、蛇視線で机や椅子の間をすり抜けつつ狙いを定めるとこは面白かったですね。

宝石がスージーに影響を及ぼし始め、次第に悪魔的な力に侵されていくスージー。そしてその力が空間と時間に影響を与えていく。開けてはならない門が開くというのはフルチ監督作では良く見られる恐怖イメージ。それは本作でも踏襲してるのですが、正直描写不足でそれほどの高揚感はなかったのが残念でした。


旅先で迷子になった子が発見される。果たして彼女は以前の彼女と同じなのか。迷子になっていた間に何があったのか。それは親には窺い知れない。もしかしたら何か酷い目にあったのかもしれない。そしてその体験が子を何か別のものに変容させてしまうのかもしれない。そんな漠然とした嫌な不安が本作の根底にあるように感じました。

ちなみに七つの大罪においては、罪それぞれが動物で喩えられることがあり、本作で象徴的に出てくる蛇は嫉妬、サソリは色欲。本作は旅行先のエジプトで迷子になったスージーが旅先から何かを持ち帰るという設定が根本にある。それでは彼女が持ち帰ったのは何か。それは少女に対して倒錯した性的欲望を植え付けるものだったのではないか。変容した彼女は机の引き出しにサソリをしまう。まるで自身に芽生える色欲を隠すかのように。

門をくぐった先で彼・彼女は何をしていたのか。それは魔との隠微な交わりだったのではないか。そういったイメージはクトゥルフ神話でも良く見られるもので、フルチ作品はクトゥルフの影響が強く見られる作品が多いことから、本作の裏には年端もいかない少女と魔との交わりというインモラルな空気感が漂っているように感じる。そしてそれが本作の魅力なのだと思います。そう考えるとラストの鳥の剥製のシーンは、「お前じゃねぇーんだよ!」的な悪魔さんのブチギレた声が聞こえてきそうで笑えます。

不思議な力のせいで失明したスージーのパパが眼帯?の上にメガネをかけて生活するという謎行動をしつつも誰も突っ込んでくれないという悲しさ。フルチ監督は盲目設定をどう調理するのかなって期待しちゃったわけですが、残念ながらすぐ見えるようになっちゃうという…。何で失明させたんやろ?笑

正直、かなりとっ散らかって迷走しまくりな作品でした。批評的にもボロボロでフルチ本人もあんまり気に入ってはないようですね〜。でも私は好きですよ。
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