horahuki

アングスト/不安のhorahukiのレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
4.5
紛うこと無き大傑作!!
マジでとんでもない映画!!

ギャスパーノエが多大な影響を受けたサイコスリラー。Werner Kniesekという実在のサイコキラーをモデルにした主人公が殺人を犯していく様子を一人称で追っていく構成で、全編を通して垂れ流されるモノローグや縦横無尽に動き回るカメラワークを含めた映像センスはノエ監督に受け継がれているのが良く分かる。

一瞬で傑作だと確信させるきまりまくったカッコ良すぎるファーストシークエンス。風の音と水滴の音が不安を煽りつつ、刑務所を見下し、行進を挟み、鳥たちが飛び立つ。何だよコレ!とんでもねぇよ!あまりに凄すぎてこの時点で最初に戻ってもう一回見直したほど。あの鳥たちが飛び立つタイミングってマジでどうやってんのやろ。カット割ってないよね?頭おかしいわ…。

背後から主人公を追ったかと思えば横から正面に回り、そうかと思えば上から見下ろして回転したり下から見上げトラッキングしたり。カットをあまり割らずに長回しで彼を追い続ける映像が、1人のサイコキラーの生態を一歩引いて客観的に観察してる気分にさせられるのだけど、彼の周囲を動き回るが故に付き従い一緒に行動しているかのような全く別の感覚も同時に生まれてくる。距離を置きつつも一心同体でもあって、理解できないのだけど理解できるようでもあって。彼に対する相反する感情を同時に想起させてしまう映像の凄まじさにゾクゾクしたし、少なからず同調させられていく背徳感にグイグイと引き込まれた。

垂れ流されるモノローグが彼の過去を紐解き理解を促す手助けとなっていくのだけど、映像として突きつけられる非道な行為の客観に対して合わさるモノローグの主観との距離感が異常性と親和性をともに増長するとともに、それが観客と彼との距離感のようにも感じられ、つかず離れずな絶妙なさじ加減をもって迫ってくる。接近しては突き放され、理解を求められては理解を拒まれ。病気のレッテルを貼って彼方側に追いやり安心させるのではなく、誰しもの内面にある狂気(サディズム)の発露として提示されるリアルタイムな彼の心情の変遷なり行動原理が理解の及ばないところにありつつも酷く人間的で、その部分に少しの同調なりを感じてしまうからタチが悪い。

主人公が襲った家族は自身の家族の映し鏡でもあったのだろうけど、虐げられたからこそ虐げる側へと回ることによる快感の振れ幅は絶大なのだということを殺人ではなく拷問衝動によって満たされる彼の歪みから感じられ、創造主により否定され剥奪された存在価値を取り戻した実感のようなものもあったのだろうなと思った。そして「成果物」が自身の価値を強大化し、それを見せつけマウンティングすることで存在価値の上乗せをしていく連鎖地獄に身震いした。

マジでこの監督が映画を撮り続けてたらどうなってたんやろ。歴史的な巨匠になってたのは間違いないやろね。高揚感を最初から最後まで一切途切れることなく続かせてしまう映像センスは本当に頭おかしいし、ダウナーな空気感だけでなく、途中でハードボイルドなカッコ良さと解放感を与えるような清々しさを挟み込んだり、犬の可愛さを表現することにも本気だったりと隙がない気がする。
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