むぅ

レ・ミゼラブルのむぅのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2012年製作の映画)
4.1
腰がメリっといって、ああ無情。

昨日は新年会のはずであった。
「鏡よ、鏡、鏡さん。年始用の氷結無糖を年末に全部飲んだのはだぁれ?」
「それはあなたです」
「ですよね」
そんなしょうもない事を考えながら歯を磨き口をゆすいだ際、何やら不穏な空気が漂った。
そこで対策をとっておけば違ったのかもしれない。
見て見ぬ振りをした結果、ひたし豆・なます・白菜漬け・煮豚を持参するという料理上手からのLINEを思い出しニマニマしながら、ではこちらは美味しい日本酒でも買って行こうじゃないかと早めに出かけるため靴下を履こうとしたその時、腰痛革命が起こった。
忙しかった12月、負担を強いられた腰が自由と平等を求めフランス革命よろしく暴動を起こした。
民衆の声には耳を傾けなくてはならない。

かくして私は新年会から脱落。
ああ無情、である。


ナポレオン1世没落直後の1815年フランス。
1本のパンを盗んだ事で19年もの間、監獄生活を送ったジャン・バルジャン。フランス激動の時代と共に、彼の生涯のうち出所後の18年間を描く。


『ああ無情』は小学生の頃に読み、何なら市民劇団が上演していた『レ・ミゼラブル』にも連れて行ってもらったのに、今作を鑑賞するにあたり記憶をほじくり返そうとしても[主人公の名前はジャン・バルジャン]以外のものが出てこないから酷い。

ずっと観ようと思っていた。
躊躇していたのは長尺のためではない。
ほぼ全ての台詞が歌唱である、という点である。
けれども『シェルブールの雨傘』が「おーい1時間ほど残業できるか?」という台詞を歌い衝撃を与えてくれた事で、その耐性はついたはずである。

冒頭、囚人たちが船の定期検査や水面下部分の修理を行うドライドックに船を引くシーンから始まる。みなとみらいのドックヤードガーデンそっくりで驚く。
調べてみたらみなとみらいのドライドックもフランス人技術者が設計したとの事だった。
映画って何と出会うかわからないから面白い。ちなみにみなとみらいでバイトをしていた学生時代、何で犬?と思っていた。
未だにドッグヤードガーデンと言いそうになっていたのだが、以降おそらく間違えまい。

囚人番号、仮の名、そして自分はジャン・バルジャンだと名乗るにあたり、彼の表情が変わっていく様が切なくも興味深い。
"私はいったい誰なのか"
ジャン・バルジャンの変わりゆく立場や名前と共に、変わりゆく時代も描き出す。
希望がない事と絶望する事、
愛する事と信じる事、
何が正しく何が間違っているのか、それを鬱々とけれども力強く怒りとともに描く。
その一言一言が重い。だからこそミュージカルなのかもしれない。
歌って踊るミュージカルの方が好きなので踊らないのかぁと思っていたが、後半になるにつれ確かにこれは踊ってる場合じゃないかもしれないと思った。

誰かと出会う事で訪れる変化、その時代その時代にある生き辛さ、誰しもが生きていく上で感じるものを突きつけてくるから今でも人気のミュージカルなのだろうと思った。

私の今の"ああ無情"なんて、ジャン・バルジャンの毛先ほどのものだろう。

楽曲がどれも素晴らしかった。
もう一度聞きたい曲を探そうとスマホを手にとった所で、友人から着信があった。
「何してんの?暇なら飲み行かない?」
「起き上がれない」
「綾野剛が結婚したからだ?」
「違うわ!しかもその場合、立ち直れないでしょ!」

何かやっぱり色々ああ無情。
むぅ

むぅ